無味乾燥な毎日でも、楽しければいいじゃない。

最近はまじめに更新できてる。とりあえず、日にちがあいても3日か4日。面白いかどうかは、あなたが決めることです(キリッ
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話題がない!話題がない!話題が話題が話題がない!(ぁ

おっおっおっおっ(^ω^ )三( ^ω^)←

分かる人は分かる。うん。

というわけでないので短編でも。




からん、からーん。






「おめでとうございます!一等が出ましたーーーー!!」
「………ウソ。」






 呆然と、目の前にある金色の珠を見つめていた。

 当たったら喜ぶよなあ、くらいの軽い気持ちで回したガラガラ。それがまさか、現実となって我が前に降臨するとは。

「なにが起こるかわかんないもんだなあ………。」

 …………ま、いいか。
 衛宮士郎は振って沸いた僥倖に感謝する。メニュー決定と彼女の笑顔。二つの懸案が、同時に解決するのだから。













『でぃーぷ・いんぱくと』
Written by maddodoggu 18.03.2012













 この国には様々な「秋」があるようだ。

 運動。読書。芸術。などなど。
 そして、多彩な食材が世に出回り、食卓をそれはもう豪華に彩るのだという。
 何と楽しみな季節だろうか。この国の料理―――無論、シロウの腕によるところが大きいとは思うのだが―――の味付け、それがそんな贅沢な食材によって更に昇華する。



 ―――――ええ、とても楽しみです。



 と、そんなことを考えながら、セイバーは玄関を開ける。

「ただいま戻りました。」

 玄関先で声をかけると、奥から少年が答えてくれる。

「おー。お帰りセイバー。おやつあるから食べにおいでー。」


 彼の居場所は台所と推測される。もしかしたら、手作りのお菓子があるのかもしれない。
 ドーナツか、はたまたドラ焼きか。ちょっと重いがホットケーキということも。
 その時間は、彼女のささやかな幸せでもある。まだ見ぬ三時のおやつに思いを馳せ、セイバーは居間へと入っていった。





 しかし。そこには、セイバーの想像を超える存在が鎮座ましましていたのだった。





「な………!?」

 異変に気付いたのは、居間の障子を開けた瞬間。セイバーの目には確かに、イデアが映った。
 いや、それは錯覚。その幻視は、嗅覚によってもたらされたものだった。
 天が見えるほどの、極上の香り。これは、一体――――


「お、ちょっと待っててくれよ。今お茶が入るから――」
「し、シロウ!」

 こぽぽ、と、急須から緑茶を注ぐ士郎の背中に、完全に浮き足立ったセイバーの、叫びにも似た呼び声がかかる。

「え?ど、どうかしたのか?」
「この香りは、この香りは一体!?絶妙です。このバランス、食欲を掻きたて、精神を和らげ、味覚をも想起させる。
 何と言うことだ。まだこのような食材が隠れていようとは、恐るべし日の本の秋……!シロウ、隠さずに教えてください。一体どのような魔術的食材なれば、このような香りが出るというのですか!?」


 ………恐る恐る、士郎が、彼女の方に顔を向けた。


(……………すごい。輝いてる。)


 瞳に星が散りばめられたのように。
 セイバーの眼差しは、未知の食材への好奇心を、言葉より雄弁に物語っていた。








「これが、松茸だ。」

 士郎はセイバーの求めに応じ、ざるに山盛りになった松茸を食卓に持ってきた。

「おお……!これが、これが松茸。書物で見るのとはまた別の輝きが……。」

 あくまで輝きを放つような成分は入っていないはずだが、ある意味そう見えるのも無理は無い。
 純国産は丹波出来。その一つ一つを良く観察すれば、そのどれもが「傘と幹との差が小さい」、極上の品であることが推察される。
 加えて、当日入荷の新鮮なもの。実に、時価にしてン万円。下手な貴金属並みの輝きは、むしろ放ってしかるべきなのだった。

「まさか当たるとは思わなかったけどな。商店街の福引なんて……。」
「いえ、シロウは日ごろの行いが良いですから。神もちゃんと見ておられたのですよ。」
 神が見ている、といえば、セイバーの喜ぶ姿なんじゃないかな、と士郎は思う。あそこまで喜んでくれる姿を見れば、神様ですら何回でも喜ばせてあげたくなるってものではないだろうか?
「して、どのようなレシピを考えておられるのですか?」
「うん、それはこれから……」



「こんにちはー。」



 と、玄関先から、時宜を得た人の声がする。

「こんにちは。桜。」
「おかえり桜……って、やっぱ驚くか?」
 桜は障子を開けた瞬間、その場で固まることコンマ一秒。が、すぐ気を取り直して喜びの声を上げる。
「わあ、どうしたんですか?こんなに……。」
「福引で当たったんだよ。丁度今から献立検討に入るところだったんだ。今日はセイバーの意見も聞きながらやろうかなと思って。」
「ええ、そうですね。じゃあ……」

 桜も食卓の側に腰を下ろす。士郎は早速、桜のおやつを調達しに食卓に立った。

「まずはごはんですよね。これだけあるから……十分できるはずですし。」
「松茸ごはんというものですね。幾度か食した炊き込みご飯の類でしょうか?」
「はい。松茸の炊き込みご飯です。ほかには……お吸い物もいりますね。」
 さらさらと、ハンドバックから取り出したメモにペンを走らせる桜。衛宮邸台所キーパーの一員として、こういう用意には抜かりが無い。
「なるほど。あの繊細なつゆに松茸を導入するのですか……。」
「風味がとても豊かになるんですよ。えーと、次は、」
「焼き物も定番だよな。七輪出さないと。」

 新たにお茶を入れた急須と、お手製ドラ焼き(桜とセイバーおかわりの二人分)を携えて参戦する台所長。これが、強敵を前にした心境か。彼の胸もまた、自然と高鳴っている。

「そうですねー。定番といえばコレくらいですけど、ほかにありますか?」
 焼き物ですか……とうなずいていたセイバーが、それに反応する。極上の試食人たる彼女は、目の前のどら焼きを愛でるとともに、やがて来る松茸づくしの理想郷アヴァロンへのイメージトレーニングに余念がない。
「そういえば、昨日見ていた番組で、フライというのがありましたね。あれなどは?」
「あ、セイバーさんも見てました?ちょっと勿体無い気もしましたけど、これだけあるなら挑戦してみてもいいかもしれませんね。先輩、どうですか?」
「フライか……。オッケー。考えてみよう。」


 変わった料理法も王道も、料理人の腕一つ。
 二人の一流シェフは、このきのこをどう料理してくれるのだろうか、と。
 誰よりも美味しい料理を楽しむ少女は、胸の高鳴りを抑えることが出来ないのだった。







「うん。上々の炊き上がり。」

 松茸御飯を満載にした炊飯器を前に、少し悦に入る。
 本当は釜でやりたいところだが、それでは来場者の腹を満たすことが出来ない。俺に出来る最善は、質をギリギリまで落とすことなく、かつ量を最大限用意できる手法を採ることなのだ。

「先輩、お吸い物もできましたよー。」

 居間には既に、おなかを空かした猛獣(ライオン1、虎1、あくま2、メイド2)達が待ち受けている。
 しかし、それこそ望むところではないか?この衛宮士郎が次のステップに進む上で、この松茸会食は大きな役割を果たすことになるだろ……

「士ー郎ーーーー!!おなか減ったよー!!!」
「藤ねえ。少しは我慢しなさい。もうすぐ出来るから。」
「でもタイガの言うことも一理あるわ。この香りは凶悪よ。空腹感にディレクトに響いてくるもの。」
「ほんと、良いわよねー。換金しちゃいたいくらいだわ。」
 ………やはり遠坂は呼ぶべきではなかったか。金と等価交換できないだけの経験を供給していると信じたいところだ。

 さて、我が騎士様はというと……

「………………………」

 精神統一の最中の様子。いつも、道場で見せる姿を、食卓で現出させていた。

 ………ように、見えるだけだと思うけど。ほら、あほ毛が振れてるし。



 まあ、そんな姿を見せられればこちらも仕上げに気合が入ろうというもの。古人曰く、料理は目でも味わう。盛り付けにもこだわって、最高の料理を味わってもらうのだ。





「おかわりも沢山ありますから、いっぱい食べてくださいねー。」

 食卓に並ぶ松茸づくし。いや、自分で言うのもなんだけど、やっぱり壮観である。

「いただきまーす!!!」

 解き放たれた猛禽の群は、宛らダムの放流の如く、壮観だ。あるものは豪放に、あるものは味わって。めいめい、思うままに珠玉の食材を味わい始める。

「これがマツタケかあ。うん、言うだけのことはあるわね。きのこはドイツが一番と思ってたけど……。」
「うん。おいしい。」
「た、確かにこれは……。城のメニューも洗いなおさなければいけませんか……。いえ、わが国の料理にこれを取り入れることも……。」
 アインツベルン家の人々はどうやら初松茸らしい。しかし、ドイツのきのこ料理っていうのも興味深いところだな……。

「ふふふ。日本の奥深さ、思い知ったか!これが茸の真髄ってやつよ!」
 藤ねえ。そこで勝ち誇らなくてもいい。

「んー、たまらないわね。たまには贅沢もしてみるものねー。」
 ………貴女のおごりで贅沢してみたいと思う。一生無いだろうけど………。



 しかし、我ながら中々上手くいったものだと思う。一口食べて、成功を確信。さて、反応はどうか………と、



 はむ。
「………………!!」
 こくこく。



 はむはむ。
「………………………!!!」
 こくこくこく。



 はむはむはむ。
「………………………………!!!!」
 こくこくこくこく。



 どうやら、言葉は要らないらしい。輝く瞳。振れるアンテナ。うなずく様子。こんな彼女を見るために、俺はその全てを料理に捧げているのだ。


 と、セイバーがこちらを向いた。


「シロウ………!!!」


 もちろん、予測される言葉は一通りだ。それを為さずして何の為の鞘ならん。
 感想なんかは、後で聞けば良いし。きっと、喜んでくれていることは、その表情が雄弁に物語っている。


 俺が立ち上がるのと、喜色満面のセイバーが声を発するのは、ほとんど同時だっただろう。


「おかわりです!!!!!!」
「了解。」




 笑顔のセイバーから、らいおん柄の茶碗を受け取る。
 この瞬間こそ。セイバー専用給仕衛宮士郎にとって、至福の瞬間――――――。






--------------------------------------------------------------------------------



 餌付け/ナイトシリーズ第二弾でしたー。
 ネタ元は、MBS(毎日放送)お昼恒例の情報番組『ちちんぷいぷい』における松茸特集だったり。作中でセイバーさんが言っていた松茸フライはそこで出てきたものでした。結構おいしそうでしたよw

 セイバーさんのアンテナが振れる設定の絵を良く見るのですが、素晴らしいと思います。このシリーズではこれからも多用するでしょうねw

 ちなみに、イリヤ嬢が言っているドイツ料理ですが、「シュタインピルツ」というきのこを使った諸料理のことです。日本では「ヤマドリタケ」。秋の味で現地では通っております。流石アインツベルン、貴族です。ちょっと高いんですw
 春の白アスパラガス「シュパーゲル」とドイツ料理素材の双璧だと勝手に思っておりますw 夏のきのこも美味しいのあるんですけど……名前なんだっけ。来年は、イリヤ城にご招待の上でドイツ料理もいいかもしれませんねw


 いや、ホロウ桜デートのように、セイバーさんもドレスアップの上でイリヤ城デートもあり(以下略)




以上。
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[ 2012/03/18 17:17 ] 短編 | TrackBack(0) | Comment(0)

タコたこユカイ

ムックは今日記事上げないそうです。・・・いや、言えって言われたんすよ。
で今回はさっき依頼を受けたシリーズモノでも書いていこうかなと。
あれっす。元ネタわかんなかったらスルーの方向で。




 私は―――――
「………………………(ぴく)!」



 私は!
「………………………………(びくっ)!!!」


 ま、負ける、訳にはっ!
「……………………………………~~~(びくびくっ)!!!!!」



 い、いかないの、ですっ!!!!!!
「……………………………………………~~~~~~(びっくぅ!)!!!!!!!」













『タコたこユカイ』
Written by maddodoggu 01.03.2012













「………あー、セイバー。そんなに怯えなくても大丈夫だと思うけど。」

 近づいては退き、触ろうとしては手が跳ね上がる。そんな仕草まで可愛らしいが、これでは何時までたっても進展は見込めない。

「ば、馬鹿な!怯えてなどいません!これは、その!」

 そうは言っても、涙目なのは隠しようが無い。三国無双の騎士王セイバーも人の子。完全無欠、とまではいかないようだ。






 事の発端は何時だっただろう。兎にも角にも、セイバーはコレが大の苦手である。


 すなわち、タコ。オクトパス。八本足の魚介類。


 日本人は言うに及ばず、ヨーロッパ人だって地中海方面ならなんの問題もなく使う食材。特に、夏のものが美味しいと評される。
 しかし、北海方面の欧州人には馴染みの無いものであり、「デビルフィッシュ」扱いされるという噂も聞いたことがある。旧約聖書でも「食すの禁止」と書かれているとかいないとか。
 セイバーも例外ではなかったようだ。前に生ダコを発見して柔らか煮にした時、何とか箸を出そうと努力していたセイバーだったが、結局最後まで彼女の口に入ることは無かった。




「………シロウ、このままでは私の面目が立たない。」
「え?」


 そして。食後の居間で切り出されたのは昨日のことである。


「あの魚介に負けるわけにはいかないのです。タコを食べられるようにならないと、私は彼奴に、シロウの美味しい食事を台無しにされてしまう。
 シロウ、どうか私に稽古をつけて欲しい。私は、貴方の食事を何でも頂けるようになりたいのです!」

 夕食の小鉢に、うっかりタコ入りの酢の物を出してしまったのを思い出す。セイバーは半ば自失、と言う感じで、藤ねえのタクアンと交換していた。………屈辱的レートで。
 悪いことしたな、とは思っていたので、是非ここは協力してあげたい所。

 しかし、である。

「うーん、でも、どうやったら克服できるかな。」

 それが問題だった。セイバーの蛸に対する反応からして、成し遂げるのは容易ではないことが想像できる。
「ショック療法でもやってみたら?」
 と、茶菓子をつまんでいたイリヤが横槍を入れてきた。
「ショック療法……か。」
「そ。この前、高所恐怖症を治すにはスカイダイビングがいい、って聞いたのよね。タコが苦手なら、捌くところから料理まで、シロウに手伝ってもらってやってみたら?」
「………むう。」
 ………何となく理屈が違う気もするし、逆効果かもしれないのだが。しかし、慣れたもん勝ち、というのはわからないでもない。
「あ、あの、タコをですか………。しかし、彼奴の切心地はこの世のものとも思えぬおぞましさで………。」
 ………西洋剣で切ったならそんな感じになるのだろうか?まあ、アレは“叩き切る”モノだしなあ。
「んー、でも、ほかに手も無いしな。やってみるか?セイバー。」
 青ざめているセイバーは、何かブツブツ呟いている。よほどトラウマがあるんだなあ。
「ほら、俺も手伝うからさ。セイバーには美味しく食べてもらいたいし。」
「あ、………そうですね。シロウが助太刀して下さるなら、あるいは………。
 ………わかりました。挑戦してみましょう。………ですが、シロウ――――、」


 私の屍は、拾っていただけますね?と、悲壮な決意を目で語るセイバー。
 大丈夫、絶対死なせはしないから。と、こっちも眼差しを送って励ましてみる。


 ………というより、そんな大袈裟な話でもないと思うけど。






 以上が、ここに到る顛末である。

 そしてたった今現在、セイバーVS.タッコング(朝獲れたてat冬木の港)の会戦が目の前で繰り広げられているのだった。最早、苦手克服レベルの気概ではない。セイバーは、怨敵撃滅のオーラを纏って台所に立っている。
 しかし、エプロン(らいおん印)姿がよく似合う―――――ではなく。正直、セイバーの敗色が濃厚。生涯、きっと数えるほどの強敵相手でしか流さなかっただろう冷や汗は、ひっきりなしに彼女の頬を伝っている。流石にジャックのようにはいかないか。

「セイバー、落ち着いて。」
「お、落ち着いていないように見えるのですか?なんの、オイル怪獣ごときに負ける私では………!」
 良く知ってるなセイバー……。ちょっと古いけど。でも、それを怪獣にたとえる地点で既に相当狼狽していると言えよう。

 深呼吸をしつつ、再びタコに挑むセイバー。だがしかし、まだ生きているそいつは、やはりセイバーにとっては荷が重過ぎるようだ。完全武装、つまりガントレット装備時の彼女ならともかく、今回は素手で掴まなければならないのだから。やっぱり、逆効果の方が強かったらしい。
「………………!!!!!し、シロウ、手、手が」
 完璧に取り乱しているセイバー。滅多に見られない光景だ。
 する、と、指の間を足が這う。
「!??!ひゃああ!!?」
 もう、こうなると恐慌状態である。見ているこっちとしては大変微笑ましいが、セイバーの胸中を慮れば、そうそう高みの見物とはいかない。
「………ま、仕方ないかな。」
 端から見ても、セイバーがこのまま勝利を収める可能性は低い。なら、もう少し後の段階から加わってもらえばいいだろう。
「セイバー、交替だ。また後で手伝ってもらうことにするよ。」
「な、私はまだやれ………ひゃう!?」
 悪戦苦闘するセイバーを蛸から引き剥がす。さっさとぬめりを取るべく、蛸の下ごしらえにかかることにしよう。
「………。」
 塩もみしながら、ちらっとセイバーを見やる。
 彼女は、何とも形容しがたい表情で俯いていた。






「よし、このくらいかな。」
 塩もみ完了、ぬめり、匂いはこれで大丈夫。前の柔らか煮や酢の物では元の形を思い出させるので、今回はなるべく原形をとどめない料理を選んだ。と、いうわけで、今日はお昼にタコ飯を予定している。
「ほらセイバー。もうぬめりとかは無いから、さ。これならセイバーも………と。」
 きゅ。俺のシャツの裾が握られる。
「負けて、しまいました。」
 どことなく、声が震えていた。どうやら、セイバーの中ではよほど悔しかったらしい。
 ふぅ、と、俺も一つ呼吸を置く。そもそも、タコ一つ捌けなかったことでそんなに気落ちすることは無いのである。何時からか、彼女の中では、目的が苦手克服からタコ殲滅に変わっていたようだし。
「バカ。気にする必要なんか無いって。」
「しかし、私は………。」
「いいんだよ。だって、さ。」
 ぽん、と、セイバーの頭に手を置きながら、俺は続ける。
「料理は俺の役目、だろ?捌くのは俺。セイバーは、タコを食べられるようになってくれればいいんだから。」






「………………」
 にらみ合うこと数十秒。ニコニコしながら様子を見ている俺と裏腹に、セイバーは真剣な目つきでソレと相対していた。

「………頂きます。」
 ぱくり。

 意を決して、タコ飯を口に頬張るセイバー。
 して、反応は。


「………………」
「――――――」
 もきゅ、もきゅ。


 固唾をのんで見守ること約10秒。ごく、と、彼女の喉が動く。
 そして―――――

「美味しい………。シロウ、本当にこれがあのタコなのですか?!」


 輝ける笑顔が、現出してくれた。


「はは、気に入ったかな。まず食べてみたら感想も変わるだろ?」
「はい。これなら何杯でもおかわりできそうです。」

 それに、と。彼女は、もう一口飲み込んでから、続けてくれた。

「シロウが作ってくださったのですから。私ももっと、信頼しなくてはなりませんね。」




 こくこくしている彼女を見て、俺は思いを新たにするのだった。
 彼女の専属料理人も悪くない、と。









 『らいおんグルメシリーズ 餌付け/ナイト』第一弾です。
 タコネタは例のホロウのアレですね。実際問題地中海では普通に出るものですが、彼女は時代が時代ですし……ねえw


 それでは、御拝読有難うございました!!



[ 2012/03/01 22:40 ] 短編 | TrackBack(0) | Comment(0)

杏子さんといちゃいちゃしたい話 看病編 

※お読みいただく前に……

この先は『魔法少女まどか☆マギカ』の登場人物、佐倉杏子さんを扱ったSSを置いてあります。
しかし、恐らくは世に一般的であろう組み合わせ「杏子さんとさやかさん」のSSではなく、
単純に「とある少年と杏子さん」のSSになっております。イメージとしてはギャルゲーっぽいものですね。
主人公は『読者諸兄』という内容です。イチャイチャしてます(笑)。
そんなわけで「俺は生きる、生きて杏子さんと、添い遂げる!」というタイプの方、宜しければ、どうぞw
逆に、「そういうのはちょっと……」という方には、非推奨、ということを書き留めておきまする。





 ……何か、おかしい。


 確実に、変だ。正直、それは間違いない。なぜなら、普通ならこんな感覚を覚える筈がないから、だ。

「いやいや、まさかね……」

 しかし、認めたくない。認めてやるものか……、……認めたら、負けだ。
 そうだよ。節々が痛いのも、頭がぼーっとするのも、春先で薄着をしているわけでもないのにやけに寒いのだって、気のせいだ。
 そうだ。それが事実なんて――、――そんなの――絶対、おかしいよ。

「……げほっ」

 ……違う。今のは、咳じゃないよ。
 あはは、御冗談を……、のどがいがらっぽいなんて、そんな、

「ごほ、ごほっ」

 ……いや、そりゃ、人間たまにはせき込むこともあるし、ね。
 そうそう、そういうこと……、

「……、……さむ……!」

 ……うん、そう。
 そんなに強くない風に思いっきり身体全体震わせて、しばらく悪寒に耐えなきゃいけないことだって、よくあるある……。



 ……いや、ないよ。
 そろそろ、認めてもいいんじゃなイカ。
 本当の状態と、向き合えますか?
 昼過ぎに自覚してから、ずっと「そう」なんだから。


「……違う――まだだ!」


 いや。そう、まだ――まだ、今はその時ではない。その時など、永遠に来ない。終わりのないのが終わり、それがなんとか、って、どっかの漫画でも言ってたじゃないか!


 そうだ。ここで、それを認めるわけにはいかない。
 ……なぜなら。


 彼女に、心配掛けたく、無いじゃないか。
 それも、僕自身の風邪で、なんて……余計な、ことで。








「ただいまー……」
「おっ、おかえり、――、……?」


 玄関を開けて、ちょうど玄関に居た杏子さんの元気な挨拶を受けた直後。その場に、妙な空気が漂った。
 いつものように、杏子さんの出迎えを受けられて、とても嬉しい――が、しかし。彼女の表情を見れば、なんとなく、その「微妙な空気」の原因が分かる。

 ……というか、え、なに。
 そんな、見た目で分かるくらいヤバいの、自分。

「……おい」
「……はい」
「おまえ……」

 怪訝そうな顔の杏子さんが、低く声を発する。どんな音でも、彼女の発する声は耳に、魂に心地良い――でも、節々は、痛い。そんな自分の状態を、なんとか苦笑いでごまかしている僕なのだが――


「ちょっと、待てよ……」
「……杏子、さん?」


 杏子さんの急接近に、鼓動が急に早まった気がした。
 そう、文字通りである。杏子さんは急に、僕に顔を近づけてきて――、いや、ほんと、こうして間近に見ると一層、彼女は綺麗だと思うんだけど……。


 じゃ、なくて。


「……」
「……!」

 ぴたり、と、杏子さんは、僕の額に、自分の額をくっつけた。
 そして、そのまま一秒ほど経った後。

「……凄い熱じゃねーか、お前!」
「……?」

 驚きを含んだ声で、彼女は、そう口にした。

 いや……それはもしかしたら、貴女の顔が近くに在るからかもしれません杏子さん。

 と、冗談はさておき。ばれた、か。「熱」。そう、ウイルスが身体に侵入した時、なんとかそれを排除しようと身体各部門が頑張って発してしまう、アレ、だ。

 認めよう。杏子さんにも言われたし。僕は、風邪をひいた。はい。本当の自分と向き合いました。僕って、ホント馬鹿……まさか、風邪貰ってくるなんて、ね……。まだ、体温測ったりはしていないけど。――というか、コレ、感覚としては、結構、かつてなく、ヤバいんじゃないか、ってくらい、――だったりするんだけど、実際、どうなんだろう、そこのところ。

「……ばれました?」
「ばれねーわけねーだろ! そんな顔色悪くて、しんどそうで……!」

 ……ああ、そう、言われたとおりだ。身体が、しんどい。それも、「極めて」という副詞を添え奉りたくなるほどに。しかし、それに彼女が気付いてくれたのは――嬉しくもあり、心配をかけて、遺憾でもあり――なんとも、複雑な心境、だ。

 とはいえ、ばれてしまったのは、もう仕方ない。後は、彼女に、なるべく心配をかけないようにしないと。

「……でも、『熱』っていいますけど、熱いっていうより、どっちかというと寒い、んですよね。春先なのに」
「そりゃ『寒い』んじゃなくて、『寒気』だ!」

 ……だから、精いっぱいのジョークをぶち上げたつもりだったんだけど。強い口調で、窘められてしまった……彼女のほうが年下なはずだけど、ほとんど年上の姉か、母か、そんな印象さえ受ける。それが、彼女の素晴らしいところである。

「で、ですよねー……」
「そうだよ! そんなになるまで、なんでほっといたんだ?!」
「いやー……朝は気付かなかったんですよねー……昼過ぎてから急にぶわっと……、あ、これはホント、ですよ……?」
「お、おい!」

 とにもかくにも、靴を脱いで、玄関に上がろう。まず腰を下ろさないと、身体がもたない。
 そう決めた僕は、そんなことを呟きながら、靴を脱ぎ、玄関に上がり。
 ほとんど同時に、大きく、バランスを崩した。


 ……あ、やっぱこれ、結構深刻なのかもしれない。

『良かった、家に帰るまでに倒れなくて』。

 そういうレベルぽいね、コレ。


 ――そして。


「……あー……すみません、杏子さん」
「バカ、謝ってる場合じゃねえよ! とにかく、横にならないと……!」

 ふらついた僕を、受け止めてくれた杏子さんに、謝りながら……いい匂いだなあ、とか、柔らかいなあ、とか、そんな本能的感覚と、手間をかけさせちゃたな、という、理性的な申し訳なさがせめぎ合って、ちょっと苦しい。

「おい!」
「…………」


 とはいえ、そんな心地になったのも、ごく一瞬。……んー、まずいな。杏子さんの声が、どこか遠い。
 杏子さんに身体を運ばれる、そんな感触がある――ああ、うん。でも、それが、確かな知覚として得られないくらい、ということは――どうやら、僕は。

 久々に、意識を失うか、眠るか、分からないくらい、思いっきり、これ以上ないってくらい、悪質な。




 風邪を、引いた、らしい、――……











「ほんっと、馬鹿だな……こいつ……」


 タオルを絞りながら、杏子はぽつりと呟いた。

 その言葉は、極めて荒い、と言っていい。
 ただ……彼女の表情は、その言葉に似合わないものだ。不安げに、心配そうに、ベッドに横たわる彼の表情を、覗き込んでいる。

「倒れるまで無理する、とかさあ……」

 氷水を張った洗面器を用意して、予備のタオルも持ってきた。既に、氷枕は彼の頭の下に敷いてある。これで、熱冷ましの準備は整った。幸い、スポーツドリンクの買い置きもある。熱冷まし、水分補給の意味で、本当は今すぐにでも飲んでもらいたいところだが、熟睡している今、起こすのは得策ではない……ような、気がした。起きたら、まず、めいっぱいスポーツドリンクを――と、そうだ、お粥とか、あったほうがいいような……。しまった……作り方、調べときゃよかった……。


 ――など、など。


 杏子は、色々と巡る思考を整理しながら、ベッド隣の椅子に、腰を下ろした。
 寝かしつけた彼の顔は、熱のせいか、いつもよりずっと赤い。

「心配、かけんなよ……もう……」

 一定の呼吸。それが、少し苦しげに聞こえる。気のせいでは無く、実際に辛いのだろう。気を失った彼を着替えさせるとき、測った体温は39℃を少し越えていた。それで苦しまない人間は、多分居ない。

「心配」、その表現も、きっと正しいのだろう。そこに別の要素を見つけるとすれば、あるいは、『心細い』かもしれない。彼女が、「一人」では無くなった、今。かつて、想像もしなかった感覚。いや、「永らく、忘れていた感覚」というのが、正しいのかもしれない。



 ……こんなにも、側に居るのに。
 心は、互いに、繋がっていない。
 杏子の不安な、心配する想いは、朦朧とする意識の中にある彼には、届いていないだろう。
 それを、確かめる術も、彼女は持ち合わせていない。

「……」

 孤独の冷たさも、想い合う温かさも、杏子は知っている。苦しんでいる彼に、ここに居る、と伝えたい――でも、それが果たせないもどかしさ。

 そこに不安が入り混じり、少しずつ、大きくなっていく。

「……大丈夫、だよな。なあ……」

 一度、負の方向に動き始めた思考は、止まることを知らない。ただの風邪、ではなかったら……? このまま熱が40℃を超えたら、それを心配しなくてはいけないだろう。もしかしたら、酷い病気、なのかもしれない、し。――それに。





 ――もし。





 それが、生死に関わるような、ものだったら……?





「っ……」


 そんな筈は、ない。意外と、人間はしぶといもの。死ぬ時は死ぬけど、どん底でも這いつくばって生きて行けたりもするし――だから、大丈夫。



 そう、考えようとしているのに。
 ……そう、考えないと、いけないのに。



 ――どうして、あたしは。
 逆に、逆に、考えてしまうんだ……?



 死を、「消滅」を、見過ぎてしまった、から、か。

 消えては点き、点いては消える、「その」イメージ。
 それは、彼女が、絶対に見たくは無い、光景。
 ……吐き気がする。それは、唾棄すべき想像だ。自分が、そんなことを、考えること、自体が、間違っている。
 そんなこと、起こりっこない。
 絶対に、大丈夫、な筈。



 そう、言い聞かせても、言い聞かせても、言い聞かせても、――



「止ま、れ……!」


 杏子は、心臓を抑えて、呟いた。

 ――いくら、言い聞かせても。負の螺旋に囚われた思考は、ベクトルを変えることは無い。

 彼女は、ベッドサイドのテーブルに突っ伏し、自分を呪うように、呟き続ける。



「もう、……やめて……くれ……」



 「それ」を。
 そんな、光景を。




 「死」を。
 大切な人の、終わりを。もう。




 あたしに、見せない、で……――














「……」


 ふっ、と、目が覚めた。

 夢を見ていた……ような、気がしないでも無い。ただ、それも定かではない……というより、全てがあやふや、である。寝起きだからか……いや、それだけじゃないな。熱も原因のひとつ、と考えていいだろう。

  そこから、じわじわと、感覚が戻ってくる。身体の節々と、咽喉の痛み。寒気、その他諸々。どうやら、身体の調子は、僕史上でも相当類をみないほど悪い、そんなことを教えてくれている。そんな、風邪の諸症状のデパートと化した身体に苦笑しつつ、僕は、額と頭の下に、冷たい、心地よい感覚を覚える。……これは、濡れタオル、と、氷枕……か。

「……杏子、さん?」

 誰が置いてくれたのか、答えはひとつしかない。と、思い到ると同時に、気配を感じて、首を少し傾けた。

「――」

 想像通り、そこには杏子さんが居てくれた。ただ、なんと言ったらいいのか――普通の雰囲気じゃ、無い。僕の声に反応したのか、彼女は顔を上げて、こちらを見てくれているのだけど……

 ……涙ぐんで、いる、のだろうか……?

「あ、……」
「大丈夫、……ですか?」

 風邪の身にも関わらず、こちらからそう声をかけてしまうほどに。それくらい、彼女は、憔悴しているように見えた。自信に満ちた勝気な彼女でも、二人きりの時に見せてくれる、優しい、あるいは、甘えん坊な、彼女でもない。杏子さんは、今まで見せてくれたことのない表情をしている。そう、評していいだろう。

「……ば、」
「……?」

 ……だから、不安になって、そんなことを聞いてしまった。
 放っておいたら、そのまま、折れてしまいそうな。そんな気がして。


 ……ただ。


「バカ……野郎!」

 ……返答として帰ってきた言葉は、とても、そんな「弱さ」を感じさせるものでは、無かったのだが。

 涙を拭って、立ちあがった杏子さんは、怒りの表情を見せて、僕に半分覆いかぶさるような格好で、顔を寄せて、胸倉を掴んで、きた。
 うん。……怒った杏子さんも、綺麗で、凛々しいし、間近で彼女を見られるのは嬉しい……んだけど。その怒りの理由が、まだ僕にはつかめていなかったり。

「……え、と……」
「大丈夫、って、こっちの台詞だ! あんなに、苦しそうにして……今もだろ! 顔赤いし、息も荒いし、汗もかいてるしっ!」

 とぼけた声を出してしまった僕に、杏子さんはまくし立てる。……確かに。熱はあるだろうし、咽喉が痛いから息もしづらいし、汗で着衣が濡れているのも認識している。

 ただ、風邪なら当然の症状、だとは思う。少々、普通のよりキツい気はするけど。

「あの、杏子さん……?」
「大体、無茶し過ぎなんだよっ! 熱があったら休むだろ普通!」

 いつしか、ほとんど涙声になりながら、杏子さんは続けた。
 ほとんど、罵倒の勢い。……ただ、そこに籠められた想いが、少しずつ、僕に伝わってきた気がした。

 ……想像が、間違っていなければ、だけど。

「す、すみません……急に悪くなって。お昼までは大丈夫だったんですけど……」
「馬鹿野郎……辛いと思ったら、すぐ帰れよ! 身体が一番大事だろ……そこで無理しなくても、いいじゃねえか……!」


 ……なるほど。やはり、外れてはいなかった、ようだ。
 そうか……そういう、怒り、だったのか。

 その怒りは、ただ、叩きつける類のものじゃ、ない。
 こちらを心配して、彼女は、そう言ってくれている。

 うん。それは、とても、嬉しいことだ。

 僕の軽率さが招いた、杏子さんのお叱りだけど、そこを素直に嬉しいと思ってしまうのは……む……不謹慎、だろうか。

「心配、したんだぞ……! 苦しそうだったから……すごく……!」

 顔を伏せて、続ける杏子さんを見て、同時に、申し訳なくも思う。やっぱり、心配をかけてしまった。実際、苦しいし、長引くかもしれない、なんていう予想もしているけど――苦しそうな顔を、見せるわけには、いかないな……そして、風邪なんて、ひいちゃだめだよ――

「……」
「……?」

 な、と。
 そう、改めて思ったところで、杏子さんが、顔をこちらに向けた。
 目と目が、合う。少し涙目な杏子さんは、まだお怒りの模様……無理もない。

 ただ――その次の言葉は、全く予想外で。

「――苦しそうにしなきゃ大丈夫、とか思ってるだろ」
「……!」

 杏子さんが低く、そう呟いた。びくっ、と、背中が反応する。実際、彼女の言葉に近いことを、僕は考えていた、からだ。

「心配かけなきゃいい、とか」
「……!」
「風邪をひいてしまって悪かった、ひかないようにしよう、とか」

 ずい、と、杏子さんは顔を近づけてくる。図星だ。……流石、魔法少女。腕っ節だけじゃなくて、洞察力にも長けている、というのか……!


「思 っ て る 、 んだろっ!」
「……は、はいっ!」


 全力で、肯定してしまった。この剣幕を前に、方便を述べることの出来る人間など居るだろうか、いや、居まい。それ以前に、彼女には嘘をつきたくない、というのもあるんだけど。


 と、それはともかく。
 杏子さんはこちらの首肯を見るや、大きくひとつ溜息をついて、

「……ま、そんなこったろうと思ってたけどさ」
「そう、なんですか?」
「ん。そりゃ、ね。あんたのことくらい、分かるよ。でも、違うんだ。そうじゃないんだ……」

 今度は、少し、微笑んで。
 穏やかな、どこか、ほっとしたような声で、続ける。

「そういう時は、無茶をしないで、さ……あたしを頼ればいいんだよ、ってこと。な?」
「……あ……」
「一人じゃない……だろ? あんたも、あたしも」

 ぽん、ぽん、と、肩に添えた手が、僕の身体を優しく叩く。

 ……そうか。
 うん。そうだ。

 分かっていなかったのは、僕だった。

 大切なのは、一人で、色々と困難を抱え込むことじゃ、なくて。

「……そうでした」
「……分かったか?」

 一緒に歩いていこう、と。
 そう決めた人と、支え合うこと、だったんだ。


 彼女も、僕も、一人では無い。


 その意味が、そこにある。
 辛くなれば、素直に、彼女を頼って、無理をしなければいいだけのこと。
 その単純なことを、僕は忘れていた。

 怒られても、仕方ないな、これは。

「だから、ゆっくり休みなよ。あたしが回りのこと、全部やっとくから」
「……杏子さん」
「家事見習い、ってな。ちょうどいい機会だ」

 にやり、と微笑む、いつもの杏子さんが、そこに戻ってきている。

 ……いや、この認識も、改めないと。どの杏子さんも、杏子さんだ。たまらなく愛しい、大切な人。
 こうして、僕に笑顔を見せてくれることは――とにかく、幸せだ。そう感じることが出来る人と、巡り合えたことが、ただ、嬉しい。

「杏子さん……!」
「……ん?」

 ……その、たまらない愛おしさを、表現しようと思って、僕は、彼女の身体を抱き寄せようとして――ふと、吾に還った。
 こみ上げる、全身の悪寒。
 そうだ――僕は、風邪を、ひいているんだ。

「す、すみません! 伝染ったら大変ですし……じ、自重します!」
「……ふふ。なんだ、……あんた、そんなこと気にするんだ?」

 抱き寄せて、すぐ離して。そんな僕の様子を、杏子さんは、面白がっている……の、だろうか。
 いたずらっぽい笑みを浮かべて、彼女は――今度は、自分から、――両手を、僕の首に、回してきた。

「こーの、小心者」
「……仰る通り、です……でも、大切なこと、ですから」
「バーカ。流れってもんがあるだろ? 世の中……」
「え、……」
「――」


 そして――、とても、とても、柔らかい感触を、僕の唇が、覚える。
 さっき、やろうとして、出来なかったことを、杏子さんは、あっさりと――その壁を、越えてきた。
 最初から、存在しなかった、と、堂々と、宣言するかのような、力強さと。


「……っ」
「……」


 想いが、伝わってくる。
 ……嗚呼。
 本当に、僕は。この人には、敵いそうもない……。


「……さて、と」
「――」


 数秒の、キス。心が落ち着いて、痛みも、苦しみも、一瞬、遠くに置いてきたかのような、心地になる。


「ポカリ持ってくるから、ちょっと待ってな。風邪の時は水分と栄養が基本、だからな」

 キスを終えた杏子さんは、勢いよくベッドから飛び降りて、冷蔵庫へと向かって行った。


 ……夢でも、見てるんじゃないかな、というくらい、幸福な、風邪ひきの夜。
 多少、どころではない調子の悪さは、今も確実に身を蝕んでいる――けど、そこには確かに杏子さんが居て、僕が居て。


 そう、こんな夜も、悪くは無い。
 一人じゃなくて。彼女と、一緒に、居られるのなら……。








 というわけで、魔法少女まどか☆マギカ、佐倉杏子さんのSSをお送りいたしました。杏子さん可愛いよ杏子さん。

 最初にも書きました通り、巷で一番人気のカップリングとは毛色が違いますが(笑)。杏子さんを幸せにしてあげたいんだよッ!というその意志が、ここまで突き動かした感じ、ですかねw

 イメージとしては、ウチの七咲さんSSと同じ感覚です。主人公が誰、というのは、特に決めていません。ぼんやり考えていることはなくはないですが(笑)、あくまで「読者諸兄」が主人公、と思いつつやっております。

 にしても、杏子さん良いなあ……。色々食べさせてあげたくなりますし、何より、その孤独を癒してあげたくなる、と言いますか。フラグ立てまくって退場してしまわれた時は、どうしていいか分らないくらい取り乱したものですよw 最終的にああなったわけですが、このSSは『ああなった』ところから先の話、と思って頂ければ。

 そんなわけで、ネタも色々ありますし、あまりこういう組み合わせを見かけないですし、「なら自家生産!」という想いもありますので、今後もぼちぼちやっていこうかな、と思っていたりもしますねw お楽しみいただけましたら、幸いです!


それではっ!
感想、お待ちしてますっ!
[ 2012/01/27 16:00 ] 短編 | TrackBack(0) | Comment(0)

R=M-B-X Ritsu=Mio-Boiled Extreme.

一度頭の体操って意味じゃなく、純粋に短編を書いてみよう。
そう思ってできたのがこれだよ。





「だああああ、もう!」



 ―― 一月三日、その、夕方のこと。
 律はそう叫び、天を仰ぎ、そして頭を抱え、机に突っ伏した。

 まるで、漫画のような行動。だが、それは故なくしてのことではない。


「……わっかんねー……」


 律の部屋、ちゃぶ台の上には、赤色の表紙を持つ、英語の過去問集が広げられていた。だけではなく、所狭しとノートや単語帳が置かれ、その他教科の過去問集が積み上げられてもいる。高校三年の冬。田井中律は今当に、受験勉強の真っ只中にあるのだった。

「……あー、もー……」

 そもそも、律が本格的に大学受験を志したのはつい最近のことである。志望、進路という見地に於いては漫然と、しっかりと決めないままに日々を過ごしていた彼女は、しかし、ある目的のために奮起するに到った。


 ――――そう。

 彼女の、愛すべき仲間――親友達と、大学でも空間を共有し、同じ時間を過ごす。

 即ち、今年受験を迎える、桜ヶ丘高校軽音部の四人が、揃って同じ大学に進むこと。 そのために、彼女は、柄でもない受験勉強に本気になって取り組んでいるのだった。


 だが、現実はそうそう甘くない。律の成績は、高校ではそう悪いほうではなく――むしろ、良い部類に入るほどのものだった。

 しかし、それも、直前のテスト対策が効を奏しての結果に過ぎない。確かに定期テストでは、それでいいかもしれない――が、大学受験は、学校の定期試験とはわけが違うのである。高校で習う遍く全ての内容が出題範囲になる以上、自然、付け焼刃でない体系的な知識が求められる。

 それゆえ、本格的に大学を志すのが遅かった彼女にとって、受験勉強は予想外の困難であった。こと、勉強という点においては、喉元過ぎれば熱さ忘れるを地で行くのが律であったのだ。それぞれの教科で記憶の彼方に亡失した知識はかなりの量に上り、その度に己の不備を嘆くのだが――――時、既に遅し、というわけだった。


「無理無理、ぜーったい無理! こんな並び替えわかるわけないじゃん……ほんっと、意地が悪いっていうかさー。英文なんてフツーに読めればいーじゃんかよー……、っと……」

 頭から煙を吹く。それはきっとこんな時の表現に違いない。律がそんなことを頭に浮かべた瞬間、机上に置いてある携帯が鳴った。

「澪、か」

 メールの差出人は、秋山澪。共に同じ大学を目指す仲ではある、が、澪はもともとしっかり勉強するタイプだ。明らかに、律よりは合格圏内に近いはずであり、あとは本番の緊張くらいが課題だろう――と、彼女はそんな風に分析していた。

 さて、どんな要件か。題名は「RE:」としかなく、明らかに無題のメールに返信したものであることが分かるのだが……

「って、おい」

 律はメールを開き、文面を確認すると、思わず周囲を見回した。


「つまずいても先に進むしかないぞ」


 ……と。
 メールには、一文だけ、そう書いてあったのだ。

 さて。どこか、監視カメラでも置いていったか? 完全に図ったようなタイミングである。まるで、ここで律が慨嘆し、憔悴しているのを直に眺めているかのような――

「……ま、んなわけないけど」

 律は携帯をスライドさせると、元の場所に置き、再び鉛筆を取った。
 言われるまでも無い。受験勉強を始めるのが遅かった以上、きちんと勉強していた澪や紬に追いつくためには、通常の倍どころではない努力が要る。

 その覚悟は、もう出来ている。
 ……もっと。いや、ずっと一緒に居たい――と、そう思える仲間が居るから。

「っしゃ!」

 高校の三年だけじゃ、勿体ない。その先だって、あって悪い筈が無い。
 もしかしたら、梓だって来るかもしれないし……その時、自分が受験生では先輩としての立場も無い。

「気合い入れて、やるぞーーーー!!!!」

 ペン回しをひとつ、鉛筆を握り直し、律は再び英語の問題集に挑みかかった。
 本気になった田井中律を、見せてやる――そんな気概を、胸に秘めながら。









「……ん?」


 机に置いてあった携帯の振動に気付き、自室で勉強していた澪は手を止めた。

 一月六日。去年までであれば、そろそろ冬休みが終わり、久々の学校が近い、と意識していただろう時期。しかし、高校三年生はその感覚とは無縁である。センター試験、そして私大受験の開始を目前に控え、更なる集中を以て勉強に挑むべき時期。無論、再び仲間の集う学校に行くのは楽しみではあるが、「休み」という意識は全くない。


 ……そんな日付と共に、「メール着信」の文字が液晶に映っている。


「二時間、か」

 携帯の時刻表示は、澪が古文の答練をはじめてから二時間が経っていることを告げていた。15時10分。恐らく、着信がなければ、時間の経過にも気付かず解き続けていたに違いない。

 メールのおかげで集中は切れたが、ただ、悪くはない。あまり根を詰めてもいけないしな、と、澪は苦笑しながら携帯を開く。

 差出人は、律。題名の欄は「Re:RE:」。無題のメールに返信したのだろう。そういえば、と、澪は思い出す。他愛ないやり取りでも、律と澪はだいたい毎日メールをしあう仲である。それが、ここ二日ばかり、ぱたりと止まっていたのだ。勉強に集中しているのだろう、くらいにしか考えていなかったが……さて。

「……また、急だな」

 ふっ、と、澪は笑みを漏らす。文面は、いかにも律らしい。どうやら、古文で音を上げた模様。「読み方教えて~」と、助けを求める内容だった。
 澪は早速、承諾の文面を打つ。もとより、受験勉強のサポートは出来得る限りするつもりなのだ。今までもそうしてきたし、今度だって同じ。……というか、申し出が遅いくらいでさえある。

「仕方ない」

 と、言いつつ、気分が悪かろう筈も無い。ちょうどいい気分転換にもなる。澪は、椅子から立ち上がり、部屋を出た。


 紅茶と、菓子くらいは用意しておいてやるか、と。


 ――結局。どこまで行っても、澪は律に甘いのである。少しは厳しく言わないとな、と、思いつつも……。








「……よう、みおー……」
「ひっ!?」


 そして、二十数分後。
 玄関で目撃した、見慣れた筈の親友の顔に、澪は衝撃を受けていた。


「り、律……か? お前……どうしたんだよ、その顔」
「かお? ……なんか、おかしい?」
「いや、やつれすぎだろ!? くま出来てるぞ、目!」
「え、そっかなー……」

 自覚はしていない、らしい。少なくとも、澪はそう判断した。
 何が、彼女にそんな表情をさせているか分からないが、とにかく、律は明らかに「やつれて」いた。……その顔を見た澪が、一瞬恐怖し、あとずさるほどに。顔色に生気は無く、眼にはくまが出来ているし、その眼にも水分が足りていない。

 たとえるならば、――幽鬼、か。


「……一体、何があった?」
「いや、……別に……勉強してただけ、だけど」
「勉強だけ……? それで、なんでそんな……って、まさか、律」
「んー?」

 勉強、していた、だけ。

 そのフレーズは、受験生の発言として特に奇異なものではない――が、しかし。


 仮に、それが「文字通りの意味」であれば、どうか?


 本当に……勉強「だけしか」していない、なら、説明がつく。
 つまり……この、律の様子は……

「……おい」
「どしたー……?」
「昨日、寝たか?」
「ん、あー……そうだなー……覚えてない……」

 律はゾンビのような足取りで靴を脱ぎ、綺麗に揃え、玄関に上がりながらそう呟いた。寝たことを、覚えていない……それは、明確に「寝た」という記憶がない、ということか。

 ……明らかに異常だ。寝ていないわけではないのかもしれないが、それはもう「睡眠」というより「気絶」に近い。


 つまり……徹夜、か。


「寝てない、のか。いつから?」
「えっとー……三日の夜、から」
「三日三晩もか!? 無茶しすぎだろ、お前!」
「だって、仕方ないじゃん。まだまだ勉強足りないんだからさ」

 さも当然、といった風に、やつれた律は言ってのける。……一理は、ある。客観的に見て、律のレベルは未だ、第一志望に届いているとは言い難い。受験まであと一月前後、というこの時期に、律が焦り、根を詰めて勉強するようになるのは無理からぬこと、と言える。

 しかし――

「ほら、行こうぜ。古文教えてよ、澪」
「あ、ああ……」

 その熱意は、好ましい。好ましくはあるのだが、不健康であることには変わりない。律の纏う鬼気に押され、律のあとを付いていく澪は、ふらつくその足取りに、一抹の不安を感じざるを得なかった。









「だから、ここが掛詞になってるんだよ。それで、この歌自体が二重の意味を持つようになってて」
「あー、……そっか。気付かなかった……」

 消え入りそうな声で、律は澪から教えてもらった知識を赤本に書き込んでいく。二人が、隣り合って勉強を始めてから三十分。古文の教授を始めた澪は、しかし、律にはらはらさせられっ放しであった。

「……っと」

 かたん、と、音がなる。律が赤ペンを落とし、それが机に当たったのだ。
 ……これで、三回目である。

「おい、律」
「ん?」
「少し、休んだほうがよくないか?」

 既に、手元が怪しくなっているのだろう。状況から見て、寝不足の影響と言っていいはずだ。律はよく澪の解説を聞いてくれているが、流石にこれ以上は澪が不安になる。

「いや、いい」
「いいって、お前」
「いいんだよ。続けて」

 律は、澪の目をじっと見つめ、そう訴える。充血気味の眼、そこに、冗談の色は一切なかった。
 ただ、真剣な眼差し。何が、その眼差しの裏にあるのか――――は、考えるまでも、ない。そのことを悟った澪に、それ以上の反論は出来なかった。

「……次は、本文な」
「ん」

 澪は、少し顔を赤くして、視線を問題文に移した。「決意」したときの律の顔に、澪は弱い。直視できない、と、言えばいいのか。嫌いである、とか、そういう感情でないのは確かなのだが、とにかく――

「だから、ここは係り結びになってるから、最後は連体形なんだよ。分かるか?」
「あー、……連体のこそ、ね」
「そうそう。だから、この問題の答えは、分かるか?」
「うん」

 問題文、線の引かれた箇所を分析し、設問への解説にする。難関の大学に例外はあるが、大抵の大学において、古文は文意を取るだけでなく、細かい文法の分析が直接問われる。澪の見る限り、律は「なんとなく」大意を取ることは出来ているものの、詳細な分析はからっきしダメなようだった。

 問題文の分析だけじゃなくて、大切なポイントだけでも一度叩き込んでおいたほうがいいかもしれない。問題文を目で追いながら、古文のノートをコピーして、と、頭の中で澪は律の勉強プログラムを組み立て……




 ごと。




「……?」




 ……次の瞬間。
 そんな音を、左手に聞いた。




「り、……」


 問題集から、澪は視線を移し。
 そして、その音の正体を、何が起こったかを、澪は悟った。


「律!」


 視界に入ったのは、机に突っ伏した律の姿。小さくなかったあの物音は、律の額が机にぶつかった音。
 律は――限界を、迎えたのだ。


 遅れに焦り、取り戻そうと頑張り。
 結局、頑張りすぎて……。


「……、……」
「……ったく、ホントに……」


 ……だが、これも律らしい、か。

 その努力の所以を想像すれば、澪に彼女を責めることなど、出来ようはずが無い。
 むしろ、その姿がいじらしい。

 昔から、ずっとそうだ。向こう見ずで、まっすぐで、一生懸命で……。

「仕方ないやつだな」

 どこまで行っても、世話のかかる。そんな律に付き合ってやれるのは、自分くらい、だろう。
 澪はその「世話」を焼くため、自分の席からそっと立ち上がった。









「んあ」


 目を開けて、最初に映ったのは天井だった。
 自分の部屋……では、ない。けど、この天井を知っている。見慣れた、と言っていいほど、ここにはよく来ているから。


「……ああ」

 寝落ち、か。律は、すぐにそう理解した。部屋のメイン照明は落とされて、灯りは澪の机のスタンドのみ。きっと、澪が気を利かせてくれたのだろう。

 本気になって、ほとんど三日徹夜して、勉強し続けて。……冷静になれば、すぐに「根を詰めすぎ」と分かろうものだ。律は自分の無茶の気恥ずかしさを、苦笑いでごまかした。


 どうやら、ベッドに寝かされているらしい。額には、ひんやりした感触がある。わざわざ自分を寝かしつけて、おでこに冷感シートまで貼ってくれたのは誰か、それは、考えるまでもないこと。

 顔を左に向ければ、ヘッドホンをつけて勉強している澪が見える。……まったく、どこまでかっこ悪いのか。古文のコツが掴めなくて、さりとて捨てて受験を乗り越えられるわけもなく。最後の手段として澪にすがりついた挙句、寝落ちとは……。

「……?」

 しかし、どれくらい寝ていたのだろうか。今日は、もともと雪のちらつく曇り空。暗さは起きていたときと変わらず、時間がはっきりしない。ただ、頭が幾分かすっきりしているのは確か。やはり、睡眠は大切……これは、大きな教訓となる。徹夜を続ければ、判断力も学習能力も劇的に低下してしまうことを、律は思い知らされていた。


「お?」


 と。集中してしばらくはこちらに気付かないだろう、と思っていた澪が、不意に律のほうを向いた。
 ふわっ、と、澪が笑顔になるのが見え――その表情が、どことなく、眩しい。


「律、起きたか」
「……」

 なんとなく気恥ずかしく、律は顔の半ばまで布団を引っ張り上げた。
 そんな律の様子を見てか、澪は椅子を立ち、ベッドの淵に腰掛けて律の顔を覗き込む。

「ん?」
「……ごめん」
「何が?」
「いや……」

 顔を近付ける澪、また少し、ほとんど目の近くにまで布団を上げる律。

「……迷惑、かけたし」

 目を逸らしながら、律はそう呟いた。勉強を教えてもらう、というだけでも、澪の集中を妨げる気がしていたのだ。それに加えて、あの醜態――律は、ただ恥じ入るしかなかった。

「……ぷっ」

 そんな律の様子を見て、澪が少し吹き出す。

「……な、なんだよぉ……」
「柄にもないな、全く。睡眠不足で弱ってるのか?」
「……かも、しんない」

 実際、そうだし。律はそう思いながら、顔を赤くする。
 澪は、そんな律の頭に軽く手を載せ、静かに聞いた。

「どうしたんだ、急に。焦りすぎだぞ」
「……だって」
「……だって?」
「……そりゃ、……同じ大学、行きたいし……浪人したら、梓に笑われる、し……」
「……ま、そうかもな。それはそれで、面白そうだけど」
「面白がるなよぉ……一応、先輩なんだし……これでも、真剣、なんだぞ」

 消え入るような声で呟く律に、澪もまた、小さい声で、耳元にささやく。

「全部、分かってるよ」
「へ?」
「律が本気だってことくらい、分かってる」
「……」
「だから、気にするなよ。勉強もしっかり教えるから、さ」
「……澪」

 ……こういう時、「持つべきものは友」という言葉が、胸に響く。頼れば、応えてくれる。律の横に居てくれる澪は、いつも、どこまでも、優しい。

 その言葉に、勇気付けられる。もしかしたら、間に合わないんじゃないか、と、不安に囚われていた自分を、叱咤しなければいけない。きっと、唯が、紬が、……そして、澪も、皆同じことを考えているはず。……梓は、また来年、同じことを、考えてくれれば、とても嬉しい。


 とにかく、一緒の大学に行くんだ。
 不安になって、立ち止まっている場合じゃない。


「……よっしゃ!」


 体の中から、力が湧いてくる気がした。
 律が、そう気合を入れ――


「やるぞ……、って」


 ――布団を跳ね除け、体を起こそうとしたその瞬間。


「ダ、メ、だ」


 律の額に、ぴたりと、澪の綺麗な人差し指が当てられた。
 気勢を削がれた形になった律は、もちろん不満を抱く。

「……なんで?」
「まだ一時間しか寝てないんだぞ。もう少し休まないと、また倒れることになるだろ」
「でも、大丈夫……」
「なわけ、あるか。ほら」

 律が跳ね除けた布団を、澪がもう一度、丁寧にかける。

「焦って体壊したら、元も子もないぞ。一回寝て、それからだ」
「……う……」



 でも、と、もう一度、律は抗弁したかった。不満げな、そんな律の表情を見取ったのか、澪はそのまま、自分の手で律の目を覆う。

 ……とても、あたたかい。
 澪の体温と一緒に、彼女の気持ちまで伝わってくる気が、した。


 自分のためを想ってくれている忠言。それをふいにするのは――きっと、良くないことだ。


「な?」
「……分かった」
「うん」

 澪の手のひらの下、律は親友の言葉を受け入れ、目を閉じた。その瞬間、ふわり、と、心地よい眠気が、律の体に広がっていく。

「……起きた、ら……」
「ああ。一緒に勉強しような」
「……ん」


 澪に見守られて、眠りに落ちる心地よさ、か。何度目になるか、なんて、数えてもいないけど、昔からそれは変わらない。

 今回は、更に格別。優しさに触れて、これ以上の心地よさはない。


「……澪」
「……ん?」
「……ありがと、な」


 ぽつり、と、白くなる意識の中、律はそう呟いた。

 今、澪に伝えたいこと。
 誰よりも近くにいる彼女に、律がずっと想っていること。

 感謝を。ただ、その側に居られることを幸せに思いながら、律は静かに、眠りに入っていった。



 了




 というわけで、律澪小説第二弾をお送りしました。前回のSSの評判がわりと良かったので書こうかな、と。 
 
 期間的には「初詣直後」ですね。受験生を経験した知り合いとしては、焦り始めて、寝ているのに夜中に不安で飛び起きたりするような時期……と、記憶しているらしい(笑)。りっちゃんたちがどんな受験勉強生活を送ったか、細かい描写は無かったように思いますので、そこを「律澪」で妄想してみました。

 唯と律はかなり遅い時期に勉強をはじめたので、それなりの難関と思しき「第一志望」合格にはそれこそ血のにじむような努力をしたのではないかなー、と思っていたりするのです。受験勉強は当に、どれだけやっても充足感を得られない「ゴールが見えない戦い」ですので、尚更に。しかし、そこは「軽音部」。恐らく、互いに支え合って乗り切ったのではないか、と思う次第ですね。 このSSは、そんなワンシーンを表現してみたつもりです。それっぽく、あと、そこはかとなく甘くなっているといいのですがw

 なお、題名は完全に遊びです(笑)。仮面ライダーWの主題歌「W-B-X W-Boiled Extreme」をもじりました。このライダー、二人でひとつのライダーになるのですが、律澪でやったらいーじゃん!などと考えておりましてw この曲のインスト版を延々かけて編集していた途中にふっと思いついて、そのまま題名にしてしまいましたw




それではっ!
感想、お待ちしてますっ!
[ 2012/01/26 18:21 ] 短編 | TrackBack(0) | Comment(1)

A quiet rainy day,and music.

またもや眠れない。
仕方ない、頭を使うか。

久しぶりの短編。
律澪です。若干百合風味かもしれません。
それでは、張り切ってどうぞ。




 静かな室内に、雨の音だけが響いている。


 ――いや。

 正しくは、雨音と、部屋にいる二人の少女が立てる物音。


「――」
「……」

                                             
 部屋の主・秋山澪は、ベースを抱えて椅子に座り、なにやら音楽を聴いている。片や、澪の親友・田井中律は、澪のベッドを占拠して、持参した漫画に読みふけっていた。

 楽譜をめくる音、漫画をめくる音。
 二人が、身じろぎする時の音。

 どちらも、静寂を破る類のものではない。心地よい静謐の中。二人の少女は、それぞれの時間を過ごしている。








 雨の土曜日、正午を少し過ぎたあたり。


 昼食を済ました澪の携帯電話に、律からの着信が入ったのは、そんな頃合だった。

「あ、澪? 今から行ってもいいかー?」
「律か? ああ、いいぞ」

 彼女はそう言ったが、相手の名前は聞き返すまでもない。よほど酷い風邪でも引いていない限り……いや、引いていたとしても多分、澪が律の声を聞き間違えることはないだろう。会話はそれだけで、すぐに律は電話を切った。澪は、そんな親友の性急さに少し苦笑いを浮かべる。しかし、それでこそ律である。

 ……さておき。どこかに出かけるのでなければ、どちらかの家に押し掛けて一緒に過ごす。それは、知り合った頃から変わらない、二人の週末の過ごし方である。もちろん、桜高で軽音部に入ってからは、もっと人数が多くなることもしょっちゅうだし、それもそれでとても楽しいことなのだが。

(それにしても……)

 そういえば、律とは、何年くらいそうしているのだろうか? 澪がそんなことを考えて携帯電話をポケットにしまったのとほぼ同時に、秋山家のインターホンが鳴る。たまたま近くにいた澪は、受話器を取って応対した。

「はい」
「澪ー、開けてー」
「早いな?!」

 受話器から聞こえてきたのは、親友の声。電話を切ってから、まだ数秒である。しかし、今回がはじめてではない――さて、このやり取りも、何回目だろうか。突っ込みをいれた澪は、苦笑しながら受話器を戻し、玄関に向かうと、ドアの鍵を開けて律を迎え入れた。

「いやー、すごい雨だよな。マンガ、ビニール袋に入れてもらってよかったよ」
「本当にな。……あ、タオル持ってくるよ。そこで待ってろ」
「さんきゅー。持ってくるの忘れちゃったんだよねー」

 水が滴り落ちるほど、というわけではないが、かなり濡れている律を見て、澪はすぐさまタオルを取りに洗面所へと走る。

(まったく、世話が焼ける……)

 澪は、内心でそう呟く。しかし、不快に思っているわけではない。一本気で、目的のためには些事に構わず猛進する、それが律の持つ一面であることを、彼女もよく知っていた。ただまあ、それだけではないのが「田井中律」という少女であり、それも澪はよく分かっているのだが。

 さておき、律にとって「雨の日にタオルを持ってくること」は些事なのだろう、と澪は思う。
 では、そんな些事が気にかからないほどに果たしたい目的――とは、この場合、なんだろうか?

「……ふふ」

 洗面所に入った澪の頬は、自然に緩んでいた。この前おろしたばかりの、柔らかいタオルを持っていってやろう。棚の前に立った澪はそう考えて、重なったバスタオルの真ん中から白い、新しいバスタオルを引っ張り出した。







 そんなことがあってから、一時間あまり。
 二人の時間は、はじまりの騒々しさとは裏腹の静けさに包まれたまま、ゆったりと流れている。


「――、……」

 澪は相変わらず、音楽を聴きながら楽譜を見つつ、右手はネックに添えて動きを確認している。と、彼女は少し難しい表情を浮かべ、リズムの確認のためか、左手でとん、とんと机を叩いた。

 澪のベッドの上に居た律は、その音に反応して顔を上げる。

(……やってるなあ)

 律は、微笑みながらそんな親友の様子を眺めている。真剣に楽曲と、楽譜と向き合う姿が、美しい。

 さて、何の曲を聴いているのだろうか。楽譜を広げてベースを携えている以上、何かをコピーしようとしていることは間違いない。ただ、律の位置から譜面までは見えないし、澪のヘッドホンから音が漏れてくることもない。

 澪に、聞いてみてもいい。けど、それはなんだか野暮な気がした。この静けさを破るようなことはしたくないし、集中している彼女の邪魔をするのも本意ではない。音楽に真剣な澪を眺める――それは、律が最も好きなことのひとつなのだ。

(多分、気付いてないよなー)

 じっと、こちらが澪を見つめていることに。澪は、音楽に集中して周りが見えていないから、恐らく間違いない。なら、しばらくこうやって眺めていてもいいだろう。律はそう考えると、読みかけの漫画をベッドの上に伏せて置いた。

(それにしても――)

 こうして横顔を見ていると、改めて思い知らされる。

(……澪って、美人だよなー……)

 ころん、とベッドにうつ伏せで横になり、澪の観察を続ける律。艶やかな漆黒の長髪、滑らかな肌、そして、あの美貌である。普通に考えれば、世の男連中が放っておかないであろうハイ・クオリティ。

 例えとしては微妙なところだが「虫」がつかないのが不思議である。女子高である、ということを差し引いても――

(……でも、なあ)

 しかし、それがいい。というか、そうでないと困る。
 ……何が困るのか、上手く説明できないところだが。
 澪の横に男が居る、という図は、どうにも想像できないし、したくもなかった。

 律は、少し顔を強張らせて、寝返りを打つ。澪から視線を切って、天井に目を向ける。
 どうも、もやっとしていけない――そんな時は、ドラムの練習に限る。

 そう考えた律は、持参した鞄からホルダーを取り出し、ファスナーを開けてドラムスティックを取り出した。

(あ、これ。そろそろヤバイかも)

 取り出したスティックには、よく見ると細い亀裂が走っていた。当然、実物のドラムを叩いたスティックには、シンバル等による傷がつく。使い続ければ、そのうち折れるものだ。ベースやギターの弦と同じで、ドラムスティックも消耗品なのである。……というより、シンバルも割れるし、ドラムの面も破れるし、消耗品が占める割合は、恐らく他のどの楽器よりも多いだろう。

 そういえば、と、折れかけのスティックを見て、律はあることを思い出した。いつかの演奏中、律が気合を入れて右のクラッシュシンバルを叩いたとき、スティックが突如限界を迎え、見事に頭の部分が折れて吹っ飛んだことがあった。すごい勢いで叩いたがゆえに、折れたスティックもまた、必然的にすごい勢いで飛んでいき――そして――横で演奏していた、澪の眼前をかすめたのである。

 あの時の澪の顔といったら――それを思い出すと、澪に悪いと思いつつ、そして、演奏前のチェックを欠かさないようにしよう、と省みつつも、律には今でも自然と笑みがこみあげてくる。澪は、尋常でない怖がりだ。当時、青ざめたその表情でこちらを向いた彼女に、律は手を合わせて、笑いを堪えつつ謝るしかなかった。



 ……そんな、怖がりな澪だからこそ。
 ずっと昔から側にいた自分が、これからも、ずっと――――と、思う。



(なに聞いてんのかなー、澪)

 いつの間にか、律の顔にも笑顔が戻っていた。一生懸命ベースを抱え、拍子を取りながら曲を聞き取ろうとしている澪が微笑ましい。律が一緒にリズム隊をやりたい、と思う相手は、きっと、どこまで行っても澪だろう。逆もまた然り、であってくれれば……それは、律にとって素晴らしく、嬉しいことだ。

 さて、澪は何の曲を練習しているのだろう?
 集中を妨げないように、そっと横から楽譜を覗いてみよう――



 ――と、そう彼女が思ったのとほぼ同時。



(あ、……)

 澪の表情が、パッと明るくなった。真剣な表情に、嬉しさの色が挿している。
 懸案のフレーズが解決した、のか。律はそう考えて、自分も笑顔を浮かべる。

 そして澪は、足を組んでベースを載せると、ピックを取り、音楽プレイヤーの頭出しボタンを押すと、自ら静寂を破った。
 いや……破る、というのは適切ではない、か。
 雨音の作る静寂に溶け込むような、滑らかな演奏を始めた。
 そのラインには、聞き覚えがある。

 ……なるほど、この曲だったか。十秒ほど澪のプレイに聞き入っていた律は、こみ上げてくる衝動を抑えられなくなった。


 澪と、この曲を合わせたい。
 ドラムセットもなにもないけど、椅子で代用することくらいは出来るから。


「the Fourth Avenue Cafe……」


 少し大きめの声で、律はそう呟いた。ヘッドホンをしている澪に、聞こえるように。
 そんな律の声を、聞き逃す澪ではない。きっと、彼女も、律と同じ心境だったのか。澪は演奏を止め、ヘッドホンを外すと、笑顔で律のほうへと顔を向けた。

「分かるのか?」
「当然! この前耳コピしたばっかだからなー」

 ベースラインを聞き分けられずして、なんのドラマーだろうか。そして、偶然にも、その曲は少し前に律が練習したものだった。歌詞を追えば悲恋の歌、というところに少し苦笑せざるを得ないところではあるが、雨に似合う曲でもある。

「じゃ、合わせるか」
「おうっ! 椅子、借りるぞー」
「ああ」

 澪はヘッドホンを外し、立ち上がって椅子を律のほうに寄越す。そして、音楽プレイヤーをステレオに繋げて、ベッドの上、律の隣に腰掛けた。

 さて、これで、静寂の時間は終わり。


 しかし。その代わりに、楽しい音楽の時間が始まる。


「いいか?」
「いつでも」


 目と目が合って、自然と二人は笑顔になる。
 澪がリモコンで曲をかけると、街中を思わせる車の音のあと、美しいピアノ音のイントロが、曲の始まりを告げる。



 さて。短いピアノのあとは、すぐにドラムの出番がくる。
 律はスティックを掲げると、肘掛をハイ・ハットに、座面をスネア・ドラムに見立て、音楽に合わせて軽やかに演奏を始めた。




 こんばんは。律澪、試してみました(笑)。いやあ、なんか、けいおん!!見てると青春心が暴走する、といいますかね。もっとも、オレのはそんなに甘酸っぱくなかったですけども!w

 やっぱ、この二人は作中でもどうしても仲良く見えてしまって、必要以上のフィルターをかけてしまう傾向がありますね。そこまではっきりとした描写はしていませんが、事実上の百合、かもしれませんw 仲良くイチャイチャしてればいいと思います。澪は律の嫁っ!w

 ただ、ベースとドラムの関係、という意味では特にフィルターをかけているわけではありません。通常、あまり聞き取れないベース、ドラムですが、両楽器担当者はしっかりと互いのパートを知っているものですw なので、このSSのようなこともあるのです。こんな風に彼女たちが練習していたらいいなあ、という妄想を、これに交えてみましたw 余談ですが、りっちゃんのやっていた練習法では、ほこりが舞います(笑)。しかし、澪さんがきれいずきでほこりの立ちようがない……とか、子供のころからずっと澪さんの家で同じことをやっているから、もうほこりもたたない、か、どちらかの解釈でひとつw

 あと、作中に出てきた「the Fourth Avenue Cafe」はL'Arc-en-Cielの楽曲です。アルバム「true」収録ですね。2006年には紆余曲折を経て(苦笑)シングル盤も出ていたように記憶しています。るろ剣でほんの一時期EDになったこともある、ということです。個人的神曲のひとつですね。これを聞くと、いつも雨に煙る街中を連想して、しっとりとした気持ちになるのです。少し、歌詞は士剣を思わせるところもありますね。

 なお、これまた余談ですが、楽曲には吹奏楽器も参加していますので、HTTの編成では不可能な曲でもあります(笑)。純ちゃん所属のジャズ研と力を合わせれば可能かな?w また、正式名称ではCafeのeの上にアキュート・アクセントがついてます。フランス語表記、ということですかねw

 さて、いかがでしたでしょうかw また気が向いたらor需要があるようでしたら、今回程度の小品を上げるかもしれませんw

 
ちょうど良い感じに眠くなってきたところで、そろそろ切り上げましょうか。
今回のはプロットもなんも考えてませんので、何か変なところがあれば、ご一報をw
勿論、乾燥を主に待ってます!

それではっ!
おやすみなさいっ!




[ 2012/01/24 23:16 ] 短編 | TrackBack(0) | Comment(0)
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