無味乾燥な毎日でも、楽しければいいじゃない。

最近はまじめに更新できてる。とりあえず、日にちがあいても3日か4日。面白いかどうかは、あなたが決めることです(キリッ
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オルタナティブゴースト~エピローグ~

【神無鞠亜】

 よく考えたら同棲だ、と思った。

「ん、どうした、鞠亜」

「い、いえ、なんでもないわ」

 墜落した飛行機から降り、さっきまで「俺は悪霊になるー!」とかぎゃあぎゃあ騒いでいた空が、ようやく落ち着きを取り戻して私の隣を歩きながらこちらに顔を向けてくる。ちなみにさっきまで満身創痍だった彼だけど、私が霊力を少し分けてあげたので、今は歩けるぐらいには回復している。

 それはそれとして。

 ……世界の危機とかですっかり忘れてたけど、私、コイツに好きとか言っちゃったんだな……。

「なんだよ、鞠亜」

「な、なんでもないわ」

「まさか、俺を改造でもする気か」

「この子ったら、すっかりひねくれちゃってまあ……」

 で、今から帰る場所は当然神無家。藍璃と親権を巡って争っていたりはするものの、とりあえずは神無家に居着くはず。実際私についてきてるとことか、神無性名乗ってるとこ見ると、空も元通りうちに住む気満々だろうし。まあ、元々一緒に暮らしてはいたけどさ。

 でも……これからは、ちょっと違うんじゃないかと思った。だって私、コイツに好きとか言っちゃってるし。
 返事全然聞いてないけど。すっかりやさぐれている時に告白したから、なんかあしらわれちゃったし。今も……人類に復讐を誓っている時に気持ちを聞いても、ロクな結果にならないことは目に見えているから、聞けないけど。

 それでも、少なくとも私の方から恋愛感情があるのは、告白してしまっているのだ。この状態で一つ屋根の下に住むというのは……。

「あ、鞠亜」

「な、なによ!」

 急に声をかけられて、びくんと反応してしまう。空は目をパチクリしていた。

「な、なんだよ、鞠亜、その反応……」

「あ、いや。……こほん。なんでもないわ。そっちこそ、なによ」

「ああ。とりあえず俺達今、神無家向かってるよな?」

「え、ええ」

「でさ。体力的にアレだから、一晩ほどは休ませて貰いたいんだけど……」

「一晩?」

「ああ。一晩したら、出て行く」

「!」

 足がぴたりと止まる。……あれ? 今、私……もしかして、捨てられた?

「……そう。私は、一晩限りの女ってわけね……」

「えぇ!? なに!? なんでお前の中でそんなことになってんの!?」

 空が慌てているが、私は聞く耳を持たない。

「神無家の女を弄ぶと、後が怖いということ……知らないのかしらねぇ」

「別に弄んでないだろ!? っていうかなんかハイテクそうなわら人形取り出すな!」

 私は「全自動丑の刻参りわら人形、のろのろ君」を舌打ちしながらしまう。

「ああ……一晩で姿を消そうなんて、この子、どこのゴルゴさんに影響されたのかしら……」

「されてねぇよ! だから、俺が出て行くっていのはだなぁ――」

「! さては藍璃ね! やっぱりあの子のことが忘れられな――」


「神無鈴音のところだよ! 式見の彼女の!」


「!」

 予期してなかった名前に、私はよろっと一歩後退する。

「ま、まさか……ちゃんと登場さえしていない従妹に恋人を奪われるなんて……」

「だから、なんでそういう発想になってんの、お前!」

「しかも相手は彼氏持ち。……寝取られ! 寝取られなのね! これが最近流行の、寝取られというヤツなのね!」

「なんでだよ! なんで俺、神無空になってから、バンバン女と寝るヤツになってんだよ! そうじゃなくて――」

「そうじゃない? ハッ、まさか――」


「目的は神無鈴音だけじゃなくて、真儀留紗鳥とか神無深螺とか……その辺全員だって!」


「その辺……全員!?」

 なに、この子! ハーレム!? ハーレム目指しているの!? え、それ、別の主人公じゃない!? あれ、私、何言ってるの!? 別の主人公って誰!?

「あ、しまった、また勘違いされそうな言い方したな……。ええと、俺が言いたかったのは、帰宅部全員ということで――」

「全員!? なんという……なんという式見蛍に対する仕打ち! どんな規模の寝取られなのよ! 悪魔ね! 空、貴方悪魔ね! 悪霊通り越して、悪魔の域まで墜ちたわね!」

「い、いや、そういうことじゃなくてだな……。あ、ほら、星川陽慈とかも含むわけだし」

「そっちの趣味もありなの!? 中目黒君なの!? 中目黒君なのね!? っていうか中目黒君って誰!?」

「知らねぇーよ! お前さっきから何一人でテンパってんだよ!」

「空……貴方は、私の手で成仏させておくべきだったのかもしれない……」

「素直に生還させてくれないかなぁ! そうじゃなくてさぁ……」

 空は頭をぽりぽりと掻き、少し言いづらそうにしながら、もぞもぞと口を開く。


「合流して、零音を叩く」


「……へ?」

 予想外の言葉に、私はぽかんと立ち尽くしてしまった。空は気まずそうにそっぽを向く。

「さっき話したろ、大体の経緯」

「え、ええ。……零音と式見蛍は行動を共にしているって……」

「そのことなんだけどさ。アレ、実は式見なりの作戦なんだわ」

「作……戦? え? いや、私も裏切られたとは全く思ってないけど……」

 話を聞く限りでは、そういう事態になったのはイレギュラーだったはずだ。零音の気まぐれというか、策略みたいなものの結果のはずでは……。

「式見に刺された時にさ。抱きついて記憶を分けて貰った時の要領で、逆に、ナイフを通して意識を送り込まれたんだ」

「なんて?」

「『最悪な状況だけど、こうなってしまった以上最大限僕も利用させて貰う。零音の仲間になるよ。どうせ現段階じゃ勝てない。だったら、傍で弱点を研究させて貰った方がいい。それに、僕が傍にいれば機嫌良さそうだし、うまいこと、これ以上ヤバイことに手を出させないよう誘導しておく。だから悪いけど、もし生きて帰れたら、空は、僕の仲間……神無家や帰宅部にこの状況を伝えておいてほしい。頼んだ。あ、当然隙あれば一人で倒すよ』」

「…………」

「……状況伝えるだけでいいって願いだったけどさ。なんつうか……」

「そうも、いかないわよね……ここまで世話になって」

「だよな。鞠亜ならそう言ってくれると思った」

 空はニッと笑って、私を見つめる。その笑顔に……少し、とくんと、胸がうずいた。……うぅ、なんなのよぅ、もう。なんか腹立つなぁ。


「そういうわけで、俺、帰宅部のヤツらと合流して、式見蛍奪還作戦に参加するわ。それが当面の俺の、生きる目的」


「…………」

 はぁ。どうして私、こんなヤツ好きになっちゃったんだろうなぁ。私の告白とか、多分、すっかり忘れちゃてるよね、これ。しかも、平気で一人で行くとか言っちゃうし。……まったく。

 私は一瞬だけ空を仰ぎ、音にならない愚痴を呟いた後……。

 空の背中をぽんと、叩いた。


【神無空】

「……いやしかし、だからって、お前、この人数はどうよ……」

 俺は特製自動車(鞠亜の自作! しかも運転幽子! 完全なる法律違反!)に乗り込んだメンツを助手席から振り返り見渡して、改めて肩を落とした。……こういうつもりじゃ、無かったんだけどなぁ。

「わたくしのドリフト、見せてあげますわぁ!」

 いらん気合いを入れる運転席、幽子。身長的に、前が見えてるのかも怪しい。

「母親として、息子が遠くに行っちゃうのは見過ごせないもん!」

 と、すっかり俺の保護者気取り、藍璃さん。……俺の憎んでいる発言とか、すっかり忘れてやしないか、この人。開き直るって、こういうことを言うんだろうな。

「藍璃までついてくるとは、予想外だったわ……。ハッ! やっぱりハーレム!? 時代はハーレムなのね!?」

 マッドサイエンティスト・鞠亜は、脳みそがすっかり他の時空を捉えてしまっているし。

「世界を救った集団か……殲滅のしがいがある」

 戦女神メイドさん・リエラは相変わらず、全く仲間ではない気がビンビンするし。

 そんなこんなで。

「……お前等、ホントに一緒にいくの?」

『当然!』

「なーんか微妙にピクニック気分じゃない?」

『全然!』

 とか言いつつ、なんか藍璃は「鞠亜ちゃん、サンドイッチ作ってきたの、食べるぅ?」とかやってるんだが。

「……世界や式見を救う気とか、ある?」

『全然!』

「全然なのかよ! そこは全然じゃ駄目だろ! バラバラ過ぎだろう、この集団!」

 この通り、全員着いてきた。帰宅部と合流すると言ったら、なんかそれぞれの理由で、全員行くと言い出した。
 多分こいつら、本気で状況が分かってない。鞠亜あたりはちゃんと考えてくれてそうだけど、昨日から脳みそとろけてるしな……アテにならない。
 幽子が車を発進させる。不安だったものの、意外と、ちゃんとした運転だった。安心してシートに背を預け、車内の喧噪に耳を傾けつつ、窓の外を流れる景色を眺める。

 ……正直なところ、少しだけ、嬉しかった。

 自分は生まれたばかりだと思っていた。空っぽの空。それでいいと思っていたし、それが、希望でさえあった。
 だけど……少しだけ、違った。
 名前が変わったのは最近だけど。俺の本当の誕生日は、やっぱり、化物屋敷で目を覚ましたあの日で。
 そして。

 その日から培ってきたものは、ちゃんと、この世界にあって。

 生まれたばかりの自分にも、こんなに、心配し、ついてきてくれる人がいる。生まれは特殊だったけれど……それでも……兄貴。俺は、恵まれているよ。

 俺にもちゃんと、家族が居たよ。

 俺はふっと微笑み、ただただ窓の外を過ぎゆく穏やかな風景を――

「わ、鞠亜にババ行ったぁー。やった!」
「く、霊能力者をも欺くとは……藍璃、恐ろしい女!」
「トランプ……意外と奥が深いな、これは」

 背後から聞こえてくる、女性陣の声。

「ダウト!」
「残念だったな、右坂藍璃」
「がーん!」
「リエラ……貴女、なんてセンスなの。このゲームは初めてと言っていたじゃない」
「甘いなご主人様。戦争を経験した私に遊びと言えど心理戦を挑むなど、愚の骨頂」

 …………。

「……いっせーの、3!」
「ふふ、危ない危ない。いっせーの、4! やった、一抜けー!」
「く、こんな運の要素が大きいゲームなど……!」

 ぷちん。


「遊ぶなぁーーーーーーー!」


 俺はいい加減、キレた!
 なんなんだよ、これ! 緊張感持とうよ! なにしに着いてきたんだよ、この人達!
 しかし、俺が背後を振り返って怒鳴りつけたその瞬間、車体ががくんと揺れる。まさかマテリアルゴーストの襲撃かと冷や汗を掻いて前を見直すと――

「さ、峠まで来ましたから、飛ばしますわよー! アクセル全開!」

「全開にすんな!」

 幽子が思いっきりアクセル踏んだだけだった!

「わー、凄い、凄いよ、空くん! 風景びゃーってなってる、びゃーって!」
「このスピード……動体視力の鍛錬になるな」
「流石私の作った車! 大気中の霊気をも取り込み常に進化を続けるこの性能! そんじょそこらの普通乗用車とはレベルが違うわね!」

「はしゃぐなーーーーーーーーーーーーーー!」

 なんか体にすげぇGがかかってきてるし! 風景が早く通り過ぎてもうよく分からない!
 
 拝啓、式見蛍様。

 貴方を零音の手から助け出すのは、しばらく先になりそうです。
 というより……。

「これがわたくしの必殺技……幽子、ドリフトですわぁあああああああああああああ」

「ぎゃあああああああああああ!」

「あ、ドアミラーが吹っ飛びましたわ。……ま、大丈夫ですわよね!」

「いやぁああああああああああ!」

 帰宅部に合流出来るかどうかも、凄く怪しいです。

 でも。

 ごめんなさい。

 正直。

「おい、ちゃんと運転しろよ、幽子!」

「ふふーん、知らないですわー」

「てめ……。くそ、鞠亜、このスピードどうにかならないのか!」

「あ、空、そこの横のボタン押して」

「ん、これか? ぽちっと」

「それこそ車体改造者達の浪漫、ターボボタンよ!」

「いぃぃぃやぁああああああああああああああああ!」

 こんな、アホな日常が。


 なぜか今は、たまらなく、愛おしいと思うんだ。

       *

 命からがら、車は峠を猛スピードで越え、今ははゆっくりと下っていっている。帰宅部の連中がいる街へと。
 どこかぐったりとした気怠い空気が満たす車内。ふと訪れた沈黙に、今までとは違った空気を孕んだ声が響く。

「ねえ、空」

 後部座席から、鞠亜に声をかけられて、俺は振り向いた。鞠亜の表情は、どこか、曇りがちだった。

「アンタ……今でも自分の生まれ、気にしている? 不幸だと……思ってるかな?」

 多分、鞠亜は俺がなんと答えるか分かっている。そんなの今更だ。
 でも、分かっていて、しかし、それでもまだ、不安だったのだろう。俺の口から、ハッキリ答えを聞きたいのだろう。

 だから。それが、分かるから。

 俺は……鞠亜の隣で同じように不安そうにしている藍璃を一瞥する。

「そうだな。不幸だ。すっごい不幸だ。こんな、バカバカしくて、苦労ばっかりの生活」

 楽しそうに運転する幽子、すぅすぅと穏やかな顔して眠るリエラにも視線をやり。

 そして最後に、鞠亜を……なぜか今は、目が合うと少し照れくさくなってしまう少女の目を、しっかり見据え。

「それに、これからずっと、マッドサイエンティストの霊能力女の隣、なんて……」

 満面の笑顔で、答える。



「誰に頼まれたって、代わってやるもんか」


おわったああああああああああああああああああああああ
よ!
っつーわけで何とかかんとか終わりました、オルタ。
正直始めた当初は一ヶ月ぐらいで終わらせるつもりだったはずなのに。
こんなに伸ばしてしまって。というか読んでる人いるのかどうかも怪しいんですけどねw

そんな感じで、明日……というか次回からは通常ブログ。
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[ 2013/02/14 17:55 ] オルゴ | TrackBack(0) | Comment(0)

オルタナティブゴースト~閉幕~

「っざけんな!」

 そう叫んだ時には、既に転送は終わり、目の前にアイツの……馬鹿兄貴の姿は無かった。
 塔の屋上。振動はまだやまないが、中枢部では既に初代があのオーブに触れてしまっているだろう。

「クッソ!」

 もう一度中枢部へ行こうとするも、転送陣が起動しない。それもそのはず。塔は既に機能を停止しているし、そうじゃなかったところで、俺の体にはもう少しの霊力も残っていない。霊力を流し込まなければ動かない転送陣を扱うのは、最初から無理な相談だった。
 それでも俺は、何もならないと分かっていながら、陣を殴りつける。何度も、何度も、何度も。既に歩くことも出来ない弱々しい体で、威力の無い拳を、幾度も、振り下ろす。


「どうせなら……最後まで悪役でいろよっ! 全然分かってねぇ! 全然分かってねぇよ!」

 次第に拳を振り上げる体力も底を尽き、俺は、ただただ、うなだれる。

「酷ぇよ……。そういうのが……俺達みたいなのには、一番辛いんだよ……」

 自分のために、誰かが犠牲になる。……あの馬鹿兄貴は、最後の最後で、俺に今までで一番深刻なダメージを与えていきやがった。

「…………」

 がくんと、その場に倒れ伏す。最初から体にはもう力が残っていなかった。普通の霊体状態だったらとうに消えている。霊力なんて、あるのかないのかも分からない。それでもこの体を存続出来ているのは、偏に霊体物質化能力の賜物だった。それだって、いつまでもつかも分からない。

「?」

 ふと、塔の振動が止まっていることに気がつく。どうやら、機能は完全停止したらしい。……ひとまず安心だ。

「…………」

 ごろんと寝転び、空を眺める。

 全て、終わった。

 御倉了という一人の人間から始まった物語は、散々他人を巻き込んだが、ようやく、全部決着した。

 まだまだ問題は山積みだ。山積みだが……とにもかくにも、ケリはついた。

 これでようやく。

 俺は、本当に、空っぽになれる。

 ゼロから、ちゃんと、スタート出来る。

 御倉了やそれに纏わる因縁に端を発した物語は、もう、終わった。

 ここからは、やっと、俺自身の……神無空の人生を……始められる。

 ゆっくりやっていけばいい。

 少なくとも、これでもう、人類がどうこうという事態は終わったのだから――

 …………。

 …………!?

「え、ちょ」

 ぐったりと横になっていると、信じられないものを目撃してしまった。
 塔が……屋上の縁が、キラキラと光に変換されている。当然だ。そもそもここの材質は霊気。それが、役割を終えたんだ。幽霊とは違えど、目的からの解放という意味では、「成仏」と似た現象が起きるわけで。
 つまりそれは、塔の消滅。ああ、願ったり叶ったりだ。人類の脅威が消えたんだ。大団円、大団円。

「……じゃ、ねぇえええええええええええ!?」

 しゅわしゅわと、なんか塔の縁からどんどん消えていってますけど!
 で、俺、今、満身創痍で全く動けないんですけど!
 そして、ここ、屋上ですけど! 雲の上ですけど!

「落ちるよな!? え、これ、俺、落ちるよな!?」

 オーブには自分が触る気だったのもあって、助かった後のことは全く考えてなかった。
 いや、俺だってマテリアルゴーストのはしくれ。通常状態なら、高所から落ちたとて、なんとかなる。物質化能力で簡易パラシュートを作ってもいい。
 だが、今は、話が違う。
 放っておいても消えそうな俺。それが、こんな高所から垂直落下。

 …………。

「全然、助かってないじゃん!」

 拝啓、クソ兄貴野郎様。

 あんたは人類と弟を救って満足に昇天なさったかもしれませんが、違いました。
 弟は、今、アンタが急に人類救ったせいで、ピンチです。

「っつうか転送するなら、一階まで転送しとけよ! なんで屋上なんだよ!」

 叫んでも何もならない。……初代が70億の死を体験していることに胸が痛んでいたが、それが若干緩和した。あの野郎、助けるならちゃんと助けろってんだ! なんなんだよ俺! どうせ死ぬのかよ! だったら、実質いいとこ奪われただけじゃないか! 俺、凄い無駄死にで、初代、カッコイイ死に方しただけじゃん!

「くそ、くそ、やべぇ」

 屋上が端からどんどん消えて行く。背中が接している床も、心なしか、硬さをを失いつつあった。
 いやだ。いやだ。落ちたくない。死にたくない。ああ、死にたくない。
 だって。
 空っぽだけど。俺は、何も持ってないけど。それでも。


 兄貴が助けてくれた命を、可能性を、こんな簡単に無駄にしてしまいたくなんか、ない!


「ちっく……しょう!」

 俺は生かされた。生きるチャンスを貰った。
 これはもう、俺だけの命じゃない。式見や初代が、必死で守ってくれたものの一つだ。

「こんなんしょーもないことで……失っていいはず……ないだろうがよっ!」

 体を起こそうとする。が、途中までで崩れ落ちてしまう。もはや、気力でどうこうなる状況ではなかった。
 それでも、塔の消滅は待ってくれない。
 床に再び手をついて起き上がろうとするも――刹那

「!?」

 ガクンと。

 支えを失い。

 バランスを崩す。

「――」

 屋上が。

 消えた。

「――――ぁ――」

 声を出す余裕も無かった。

 体中に吹き付ける、風、風、風。

 落下している。

 周囲を、塔の残像の中を、高速で突っ切っていく。

 残像がまだ残っているせいで、地面は見えない。

 そのせいで余計に恐怖感が高まる。いつ地面に衝突するとも分からない中を、俺は、落ちて、落ちて、落ちて――


<ボフゥッ!>


「!?!!??!?」

 衝突した!

 思ったより早かった!

 顔から、思いっきり、衝突! 痛みも何も感じなかった。ただただ、衝撃だけがあった。
 ああ、死ぬ時って、こんな感じか。あっけないもんだな。元々死人だけど。
 ごめん、初代。俺、結局あんたに貰った命、ものの数分で失って――

「な、ちょ、大丈夫!? ねえ、ちょっと、起きなさいよ!」

「?」

 誰かに声をかけられ、ぱちぱちと目を開く。……どうせ、周囲は俺の臓器とかが飛び散ったグロテスクな惨状に――。

「リョ……じゃなくて、空!」

 なってなかった。

 代わりに、見知った女の顔が、目の前にあった。

「……鞠亜?」

 まるでそれは、あの出会いのようで。

「ちょっと空、大丈夫!? なんで素直に落ちてきてんのよ、アンタ!」

「??」

 意味が分からず、むくっと起き上がる。と――ようやく、自分が置かれている状況を認識した。

「飛行機? つうか……なんだこれ」

 自分は、なんか知らんが、乗り物の中にいた。飛行機……飛んでいるし、そう言うのが適当だとは思うのだけれど、妙にレトロだったり、コンパクトだったり、屋根がなかったり、おもちゃっぽかったりとイレギュラーなため、今ひとつ確信が持てない。
 なんにせよ、俺が衝突したのは、座席のクッション部分だったようだ。どうりで、柔らかいはずだ。それに、思ったほど加速度もつく前だったらしい。つまり……。

「た、助かった?」

「助かってないわよ!」

 鞠亜に怒鳴られ、びくんと肩を強ばらせる。気付けば、彼女は俺の前の座席に座っていた。っていうかこれ……飛行機っていうより、よく見りゃ車の座席みたいなんだが……。
 目の前には、とてもご立腹の様子の霊能マッドサイエンティスト。

「あんた何猛烈な勢いで降ってきてんのよ! ただでさえ不安定な機体なのに、もう! 完全にバランス失ったじゃない!」

「ええ? なんか俺、怒られてる? え、人類救う戦いしてきたばかりだよ、俺」

「知らないわよ、そんなの! 落ちるなら、一人で落ちなさい! 様子見に来た私達まで巻き込まないでよ、もう!」

「ええっ」

 なんか酷い扱いだった。が……よく考えれば、さっきまで俺の心配をしてくれていた気もする。……まあ、鞠亜は元々こういうヤツだしと、受けいれておくことにした。
 とりあえず、どうも緊迫しているようなので、状況を尋ねることにする。

「で……どうした?」

「どうしたもこうしたもないわよ! 塔が不穏な形態変化しているから、これは二人がしくじったんじゃないかと慌てて、昔自作したボロ飛行機で様子を見に来てみれば……これよ!」

「なるほど、鞠亜の自作か。道理で」

 全体から胡散臭さが滲み出ているなと思いました。
 納得していると、今度は鞠亜の隣……操縦席と思われる場所から、キンキンした高い声が飛んでくる。

「冗談じゃないですわよ!」

「あ、幽子もいたのか。小さくて見えなかった」

「な、なんですの! 命の恩人に向かってその態度はぁ――」

「ちょっと幽子! 操縦に集中しなさい!」

 隣の席の鞠亜に窘められ、ちびっこは飛行機の操縦に戻る。

「……っていうか、おい。なんで幽子が操縦なんだよ」

 ここまで果てしなく不安な光景を、俺はかつて見たことがあったろうか。
 幽子はハンドル(やっぱり車の流用だ)を握ったまま、ふふーんと偉そうにしていた。

「わたくしのスペックを持ってすれば、このようなこと、造作も無いのですわ」

「ああ、またカラダの機能頼りか」

 どうせあらかじめ鞠亜に仕込まれていたのだろう。

「そ、そんなことありませんわ! 生前からわたくしは充分ハイスペックでしたわ!」

「ふーん。車の免許は?」

「そんなものは持ってませんわ。しかし、わたくし、三輪車業界ではその人ありと言われてましたのよ」

「なにそれ、名誉なの? ホントに名誉なの?」

 よく分からんが、まあ、とりあえず不本意ながら、操縦が一番上手いのは間違いないようだった。幽子本人が凄いわけではないけれど。
 俺は「それで」と鞠亜に話を戻す。

「なにを慌ててるんだ、お前は」

「なにを、じゃないわよ! さっきも言ったけど、この飛行機、ただでさえ飛ぶのがやっとなのよ! そこに、アンタが降ってきたりしたものだから……」

「だから?」

 俺の問いに、なぜか、幽子が笑いながら答える。


「既にわたくし、ぜーんぜん操縦できてませんわ! ほぅら、手放し、手放しー」


『はしゃぐなーーーーーーーーーーーー!』

 変なテンションになってしまっている幽子はさておき。
 気付けば、確かに、飛行機はさっきから塔の残像の中をぐるんぐるん旋回していた。おまけに、少しずつ高度が落ちていっているようである。つまり……。

「おい、鞠亜。これ、落ちるんじゃ……」

「だから、そう言ってるでしょ! ヤバイのよ、凄く! もう、これ以上ショックがあったりしたら――」

 と、鞠亜が言った瞬間だった。



《キシャァァァァァアアアアアアア!》



『な』

 唐突に、機体を大きな影が覆う。異常な金切り声に、見上げると、そこには巨大な鷲の化物が、バッサバッサと機体に合わせて旋回しながら、こちらを睨み付けていた。

「マテリアルゴースト!?」

 幽子が叫ぶ。確かにあれは、マテリアルゴーストだ。それ以外に考えられない。しかし、なんでよりによってこんなタイミングで!

「塔の中にいた……残党?」

 鞠亜が呆然としながら呟く。恐らくそんなところだろう。もしくは、あの性格の悪い零音の置き土産か。

「ど、ど、ど、どうしますのよぉ!」

 幽子はがちゃがちゃとハンドルを切っているが、全く機体の動きに繋がらない。ちゃんと動いたところで、常識外の運動能力を持つマテリアルゴーストから逃れられるとは、思わなかった。

「くそっ!」

 俺は応戦しようとするも……当然ながら、全く体が起き上がってくれない。

《シャアアアアアアアアアア!》

 鷲の化物は、明らかに俺達を殺そうとしていた。駄目だ。あれは、完全な悪霊だ。しかも、見境のない、天災タイプ。俺がまともな状態だったとしても、苦戦するレベルの相手。どうしようもない。

「! そ、そうだ!」

 ――と、鞠亜がなにを思ったか、身を乗り出し、後部座席にやってきた。俺もいるためとても狭いの中、鞠亜は更に後ろの方へと体をやり、何かをしようと――。

《シャッ!》

 瞬間。

 遂に鷲が、こちらに向かって急降下を初めてきた! 狙いは……。

「鞠亜!」

 叫ぶも、もう、遅い。

 鷲の鋭い嘴は、まさに鞠亜の背を貫こうと――


《――――ゴン!》


 鈍い衝突音!
 
 …………。

 衝突音?

「へ……?」

 気付けば、そこあった光景は、重傷を負った鞠亜などではなく……。

 なにかに殴り飛ばされたかのように、首をだらりとしながら、機体からはじき飛ばされて落下していっている鷲だった。

 状況が分からずぽかんとしていると、背後から、凛々しい声が聞こえてくる。



「勝手に命令を推測、実行したが、問題はなかったか、ご主人様」



 慌てて振り向く。そこには……なぜか飛行機のくせに備え付けてあった「トランク」から堂々と立ち上がっている、無表情メイドさんがいらっしゃった。

「り、リエラ?」

「む、みくら――ではないな、神無空。あの程度の相手もあしらえないとは、失望したぞ」

「え? いや、まあ、ごめん」

 トランクからひょこっと出ている妙なメイドさんには、言われたくない気もした。
 鞠亜が「ふぅ」と息を吐いて自分の席に戻りながら、説明する。

「一応連れてきておいたのよ、こういうこともあろうかと」

「なんでトランクに……」

「初代にやられたきり、メンテも不十分だったからね……。出来るだけスリープモードにして温存させておきたかったのよ」

「そう……。っていうかリエラは、その扱いでいいんだ……」

 そう振り返ると、リエラは既にトランクを閉め、シュタっと、俺の隣の座席に降り立っていた。

「何を今更。というか、私は怒っている、神無空」

「はい?」

「お前のせいで、今日は昼ドラを見られなかった」

「ええ-。こっちは世界の命運賭けて戦ってたんですけど……」

 最終決戦している時って、現場にいない人はいない人で、無事を祈ってくれていたりするもんじゃないのだろうか。

「まったくたるんでいる。世界ぐらい、一人で救えないのかお前は」

「どんなレベルの会話ですか、それは」

「帰ったら、特訓の必要性がある」

「ええー、もう戦闘力とか、いいよ……」

「式見蛍と初代はどうなった。零音という存在は」

「…………」

「……力がなければ、何も、守れない」

 リエラは珍しく、感情を含ませた表情を見せていた。……自分の過去のことを重ねているのだろうか。
 俺は少し俯き、そして、返す。

「特訓、付き合ってくれるのか? 命令じゃなくても?」

「…………。……私の鍛錬のついでだ」

 ぷいと顔を逸らしてしまう。その態度に、鞠亜も一緒になってニヤニヤしていると……幽子が急に「にゃー!」と叫び声を上げた。


「もう、全然、まったく、本格的に、操縦の余地がないですわー!」


『えー!』

 ほんわか大団円っぽい雰囲気を出している場合ではなかった!

 一切何も解決していなかったことを、俺達は思い出す。

 なんかエンジンもぷすぷす音ならしてらっしゃいますけど!?

「私は、普通に飛び降りて、着地出来る」

「リエラ!? なんで今胸張ってそんなこと言うの!? 一人で生き残る気満々!?」

「いざとなれば」

「裏切り者ー!」

 ここに来て、友情とかも台無しだった。そうだ。俺達の間には、式見の帰宅部みたいなああいう温かい関係性は、全然無い。

「ふふ……ふふふ。わたくしも、この体に搭載された機能、『ぼよーん幽子ちゃん』モードを使えば、これぐらいの高度から落下しても……ふふふ」

「幽子!? てめ、そんな算段してないで、もっとガチャガチャやれよ! 努力しろよ!」

「……実は私も、こんなこともあろうかと懐に忍ばせておいた『ポケットパラシュート君』で、一人だけなら……」

「鞠亜!? え!? 何!? この集団、仲間意識ゼロですか!?」

 拝啓、式見蛍様。帰宅部が、凄く、凄く羨ましいです。

 ふと気付けば……全員が、俺をなんか温かい目で見ている。……おい。

「空。貴方と過ごした時間……楽しかったわ!」

「鞠亜さん!? ちょ、なに涙を目に浮かべてやがるんですか!? どういうエンディングに持ち込もうとしてらっしゃいます!?」

「わたくし……わたくし、世界を救った英雄と暮らせたこと、誇りに思って生きていきますわ!」

「っつうかなんで操縦すっかり諦めてんだよ、お前は! お前はとりあえず努力しろよ!」

「ここで死ぬぐらいの器では、大切なものなど守れるはずもない。そう思わないか、神無空」

「大切なものどころか、自分の体も守れそうにないんですけど!? 助けようよ! そういう人は、助けてあげようよ!」

『…………』

「お、お前ら……」

 全員が憐憫の視線で俺を見ている。なんだ。これが、一つ屋根の下で一緒に暮らしたヤツらの態度か?
 ぐれてやる……。

『じゃ』

 全員が、あっさり、飛行機から脱出していく。鞠亜も、幽子も、リエラも……一斉に、それぞれの打算を持って、飛行機から飛び降りていった。…………。
 
 マジだった。マジでヤツら、俺を見捨てやがった!

「う、うおおおおおおおおおおおお! 死んでたまるかぁああああああああああああ!」

 いや、死んでるけどさ。
 俺は最後の力を振り絞り、操縦席へと身をすべりこませる。

「い、生きてやる……! 生きて……生きて、ヤツらを地獄に送ってやるぅーーー!」

 完全に悪霊のスタンスだった。それが良かったのか、ドス黒い性質ながらも、ちょっとだけ力が湧いてくる! 操縦ハンドルを握り、周囲の機器をとにかくガチャガチャやり、諦めず、なにがなんでも諦めず、俺は、力の限り生きるために動く!

 そう! 人は諦めなければ、奇跡を起こせるんだ! 

 俺はこの戦いで、そう学んだ気がする!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 そうして――。




《ちゅどーん》



 普通に、墜落した。


 世の中、根性論じゃありませんでした。



       *



「おーい、生きてるー?」

 そう言って鞠亜に救出されたのは、それから十分後のことだった。

「言い忘れてたけど、あの飛行機は墜落時、乗員が一人だけなら、、特製の《カプセルシェルター機能》によって守られるようになってるのよ。だから、三人脱出出来れば、あとは残りもなんの問題もなく生還できるんだけど……言うの忘れてたわ。いや、なんかアンタ凄い焦ってるから、おかしいなーとは思ったのよねー」

「…………」

 かくして。


 俺、空っぽの神無空の、人生最初の目標は。


「ふ……」

「ふ?」


「人類に復讐してやるぅうううううううううううううううう!」


 兄の思想を引き継ぐことに、めでたく決定いたしました。
[ 2013/02/08 16:32 ] オルゴ | TrackBack(0) | Comment(0)

オルタナティブゴースト~終章9~

【1】――式見蛍――

「これは……」

 眼下に広がる、塔の屋上の映像。先程まで初代と空の壮絶な戦いを映していたそれは、しかし、今は……。

「あらら。ダブルノックダウンだね♪」

 零音が愉しそうに笑う。二人の、命を賭けた戦いをそんな風に軽く扱う態度に腹が立ったが、それを注意している場合ではない。

 初代と空。二人が、殆ど霊力を使い果たし、その場に倒れていた。あんなの……どちらも、もう、いつ消滅してもおかしくない。

 そして、もう一つ、気になること。

 僕は……零音に向き直って、訊ねる。

「これは、《引き分け》じゃないのか?」

「ん?」

 とぼけるように笑う零音に、僕は怒鳴りつける!


「だから! 賭けは、無効なんじゃないかって言ってるんだ!」


 そう。

 これなら……これなら、全て、ノーカウント。それどころか、初代が倒れた今、世界を滅ぼす理由も無い。零音は元々、今回の件に《介入している》だけだ。力を貸し与えているだけ。彼女の本来の思想からも、積極的に世界を滅ぼしにかかる理由は、まだ無いはずだ。

 こんな風になるとは、思いも寄らなかった。初代と空は、零音の想像をも、凌駕したのだ。

 しかし……零音は、余裕の態度を崩さなかった。

「ケイ♪ 焦っちゃ駄目だよ。ほら、結果は、ちゃんと出ているじゃない」

「な……に?」

 僕は、慌てて二人を見る。

 と……今まで倒れているだけだった二人に……いや、空に、変化があった。

「…………」


 よろよろと、空が、立ち上がる。


 倒れる初代を見つめ、何か複雑そうにしながらも、しかし……しっかりと、その場に立っている。

 嬉しかった。仲間が、空が、勝ってくれて。無事でいてくれて。素直に、心から、嬉しいと。

 そう、思った。

 そして――



「さぁて、ケイ♪ こっちの勝負は私――零音の勝ち」


「…………」


 零音の顔が……今まではユウと瓜二つだったその顔が、しかし、ユウならば絶対にそんな表情はしない……邪悪な笑みに、代わる。



「契約は絶対。ケイは、もう、私のもの」



「…………」

 僕は。

 …………空を。初代を。二人の様子を、ジッと、数秒、眺めた後。

 拳を、握り締め。



 こくりと、零音に頷き返した。




【2】――神無空――


「……なあ……」

 目の前で、俺の最後の銃撃によって倒れている初代に向かって、ぽつりと、呼びかけてみる。反応は返ってこない。それでいい。兄だなんだと呼ぶのは、あれっきりでいい。

「さて……」

 とりあえず、式見蛍と零音を探して、この塔自体をなんとかしなきゃらないない。

「でも、初代が倒れたんだし、もう、世界がどうこうという事態は回避され――」

 と、そこまで呟いたところで。ぐらりと、足元が揺れた。

 ガガガガガガガガガガガガと、床が振動する!

「な、なんだ?」

 塔が消えるのだろうかと思ったが、しかし、そんな様子は無い。ただただ……何か「構造が無理矢理変わる」かのように、揺れている。

 なにが起こっているのかは分からない。分からないが、凄く……凄く、嫌な予感がする。

 とにかく、式見と零音がいるであろう場所に行かなくては。何かが起こっているとして、その原因は、確実に二人にあるはずだ。

 俺の中に残っている初代の記憶から、その場所……恐らく中枢へと続く道を、探す。

「ここで……」

 屋上の中心に立ち、よく見れば陣のようなものが描かれている床に、少量の……物質化しない程度の霊気を流し込んでみる。すると、陣は淡く発光し、そして、脳内に塔の各フロアのイメージが送り込まれてきた。

「行きたい場所に行けるわけか」

 俺は、それらのイメージを順番に確認し……そして。

「いたっ!」

 式見と、零音の居る空間……なぜか、この屋上が下に見える(こちらからは上空に何も見えない)場所を確認し……そこに、意識の照準を、合わせた。

 一瞬の、浮遊感。

 その後には、俺は――


「ようこそ、空君♪」


「っ」

 零音の、目の前に居た。慌てて彼女から距離を取り、構えて、応じる。……赤色の球形の部屋。床には、屋上の映像が映し出されていたが、しかし、零音がパチンと指を鳴らすと、それは消えてしまった。……俺達の戦いでも、観察していたのだろうか。

「?」

 ふと。今までは目の前の零音の圧倒的な存在感に気圧されてしまって気付かなかったが、彼女の隣に……式見が、零音に対峙もせず、むしろ寄り添うにように立っているのに気がついた。

 まるで、二人が、俺に対峙しているようだ。

「おい……式見? どうしたんだよ」

「…………」

「零音は、敵だろ? なんでそっち側にいるんだよ」

「…………」

 式見は、何も答えない。零音に何か精神操作でもされているのかと考えたものの……こいつの精神力の尋常じゃなさは、誰よりも記憶を分けて貰った俺が理解している。それはないだろう。事実、その目や表情を観察しても、操られているもの特有の無感情さは見てとれなかった。

 しかし、それでも式見は、俺に何も言葉を返してくれない。

 俺が混乱していると、嘲るかのように、零音が甲高い声で笑った。

「あははっ! 何言ってるの空君」

「なにって……」

「ケイは、私の、恋人だよ。元々ね」

「はあ? ふざけんな! 俺だって式見の記憶を分けて貰ってんだ! その姿は、確かに式見の元恋人の姿だが、お前みたいに性根の腐ったヤツじゃ――」



「ケイ。ちょっとあの空君、うざい。黙らせて」

「……ああ」


 ――と。

 唐突に。

 式見が。

 タンと、俺の元まで跳躍し。

 そして――


「がっ!?」


 頬を思いっきりぶん殴られ、俺は、信じられない勢いで壁にまで吹き飛ばされた。

 背中から壁にぶつかり、呼吸が止まる。

 そのまま床に崩れ落ちたところで……俺は、初めて、事態の異常さを認識した。

 ……なんだ?

 今、俺、何された?

 いや。


 誰に、何を、された?


 信じられない思いで、床に腕を着き、どうにか、ふらふらと立ち上がる。

「式……見?」

 俺の表情に、式見は一瞬口を開きかけたものの、しかし――

「ケイ? ケイは、もう、私のものだよね? 勝手に誰かと口を利いたりするのまで、許したっけ?」

「っ…………」

 式見は一瞬だけ苦々しい表情をすると、しかしすぐに、再び零音の傍へと戻っていった。

 …………。

 ……そういうことか。詳しい事情は全く分からないが、とにかく式見は今「あっち側」で、そして、なにより、その状況を好ましくは思ってないらしい。……元々裏切られたとは思ってないが、しかし……これはこれで、厄介なことになった。

 俺は零音を睨みつける。しかし、彼女はやはり、笑顔だった。

「そんな風に見ないでよ、空君。私は、もうキミの敵じゃないと思うけど?」

「なにを馬鹿な」

「馬鹿? そんなことないよ。この戦いは結局、リョウ君……キミの言う、初代君の戦いだよ。彼が倒れた今、私は、特に空君と敵対する理由はないと思うけど?」

「じゃあ、とっととこの塔を消せ!」

 俺の命令に、しかし、零音はクスクスと笑うのみだった。

「どうして? 私はもう、あらゆる意味で《無関係》だよ。この塔をどうにかする義理もないよ」

「てめぇ……自分で種を蒔いておいて!」

「種を蒔いたのは私。だけど、水をやって、育てたのは人類じゃない。諸悪の根源、っていう言葉があるけど。確かに根源は、私かもしれない。だけど、だからと言って、全責任を押し付けられる謂れはないと思うよ?」

「詭弁はいい! とにかく初代は負けたんだ! だったら、この塔だってもう不要だろう!」

「違うよ。もう、私はこの塔には手を出さない。だけど、この塔がこれから何をしようと、それも、私には無関係。私は……ケイを手に入れらただけで、《今回は》もう充分だから♪」

 上機嫌に、式見に抱きつく零音。……胸糞悪ぃ。ユウっていう式見の恋人が、どんなヤツだったか、今の俺はよく知っている。知っているからこそ……式見の、零音に対する憤りも、よく理解出来た。こんなのは……酷い冒涜だ。ユウだけじゃない。式見の心も、踏みにじっている。

 と、塔がまた鳴動する。俺の中の不吉な予感が、更に膨れ上がる。

「……おい、零音。戦いが終ったって言うなら……なんで、この塔はまだあるんだ」

「? おかしなことを訊くね、空君。この塔は、もうとっくに、《完成されたもの》なんだよ。私が何か今更小細工しているわけじゃない。リョウ君の望みに呼応して、私が、彼に与えた武器」

「武器?」

 零音は、「そう」と、実に愉しそうに微笑む。



「時間が来れば、この塔はリョウ君の力を媒介に、全人類に対して《全てを貫く弾丸》を放つ」




「な――」

 そんなこと出来るはずがない……とは、言えなかった。零音とかいうこの女の特殊性を考えれば。初代の能力を異様なほど増幅してしまうことだって、可能なはずだ。
 さっきからの振動は、弾丸の射出口でも形成されているからだろうか。
 式見の表情を見る。彼は……拳を握りこんではいたものの、必要以上に感情を表に出すまいと、耐えているようだった。……何が式見をそこまでさせるのかは、分からない。分からないが……残念ながら、今は式見のことを心配している余裕など、無さそうだ。

「だったら、さっさと塔を止めろよ!」

「なんで? もうとっくに、塔は完成して、私が何かするまでもなく、時間が来れば起動するようになってるんだよ? それを、わざわざ私が止める理由って、なに?」

「責任あるだろう!」

「……そういうアホみたいな論理、私、だーいっ嫌い。あなた達だって、よく言うでしょ? 力自体に善悪は無く、力を扱う者の心が問題なんだって。この場合、武器を作ったのは私だけど、それを使ったのは、リョウ君。貴方の片割れ。責任は、キミ達にあるんじゃないのぉ?」

 ニヤニヤと嗤いながら告げる零音。……違う。詭弁だ。こいつは、絶対に、最初からこうなることを考えていた。力を本当に扱ったのは、初代じゃなくて、零音だ。
 しかし……説得なんて、そもそも、無駄なのだ。だったら……。

「もういい。なら、せめて止め方を教えろよ」

「あははっ、そう来ると思ったよ♪」

 なぜか、零音はとても上機嫌になった。まるで、俺がこれを言い出すのを、待っていたように。

 彼女は……無邪気な微笑みを、俺に向ける。




「世界を救うのは、いつだって自己犠牲だよね♪」




「……え?」

「私、見たいなぁ、アニメみたいなカッコイイシーン♪ ねえ? ケイも、見たいよねぇ?」

 式見に同意を求める零音。式見は、悔しそうに唇を噛むだけだった。

「自己犠牲? ……俺に、何をさせたいんだよ」

「簡単だよ。この塔は、もうじき構成する成分が全て弾丸に変換されて、世界に飛散し、人類全てを貫くの。ポイントは、ここ。飛散するから、人類全員が被害を被るの。だったら……」

「……飛散させずに、俺が全部受け止めれば解決ってことか?」

 思っていたよりは、普通の解決法だ。……自己犠牲はイヤだが、しかし、マテリアルゴーストである俺の体だ。いくら銃弾を受けようが、耐え切ることは不可能では――


「ああ、ちなみに、その場合請け負って貰うのは人類全ての痛み、だからね♪」


「…………」

「約70億の死の苦痛を、全て体験して貰わなきゃいけにゃいにゃ~♪」

「…………」

 ああ……そうか。こういうヤツなんだな、零音っていうのは。
 彼女は、実に愉しそうに、自分の作ったシステムの面白さを解説する。

「ねえ、人類を、たった一人の自己犠牲で救おうと思ったら、それ相応のリスクがないと、私は嘘だと思うんだよ、空君♪」

「…………」

「一人、簡単に死ぬだけで、人類が守られる? なーんか、納得いかないよねぇ、それ。ちょっと、バランスとれてないよねー、うん」

「…………」

「だから。この塔は、機能を止めることは出来るけど。でも、その《止めた存在》は、70億回死んで貰わないと、割に合わないってもんだよ♪」

「…………」

「というわけで、この塔を止めた人は、代わりに、意識に《70億回の死》を叩き込まれるように出来てるから♪ とーぜん、心なんか壊れるから、幽霊だったら苦しんだ挙句消滅だね♪ 頑張って、空君♪ 正義の味方は、自己犠牲で人類を、救っちゃおー!」

 実に無邪気にはしゃぎ、床から奇妙な紅い台座を出現させる零音。台座から少し浮いて、禍々しく、血のように紅黒い発光体……オーブが浮遊している。……あれに手をかさせば、恐らくそれは、成されるのだろう。

 ……今、気付いた。

 気付いてしまった。

 この女、ハナから、人類滅ぼすつもりなんてなかったんだろう。

 よく考えてみれば。

 この結果。


 一番得をしたのは、零音だ。


 俺と初代の、命を賭した戦いを存分に楽しんで。

 塔を作って、人をあたふたさせて、楽しんで。

 お気に入りの、式見蛍まで手に入れて。

 人類は滅ばず、まだまだ、コマとして遊べる余地があって。

 でも、最後に俺が《70億の死》で苦しむところは、堪能出来て。


 ……なにからなにまで。徹頭徹尾、この事件に関する森羅万象全てが、零音の利益。

 最初から最後まで想定通り。

 無邪気に笑って。

 全てを手に入れた。

 残酷でもなければ、歪んでいるわけでもない。ただ単純に、全知全能の遊び人。それだけだ。

 …………。

 死は、怖くなかった。《70億の死》は少し怖かったけど、それでも、大切なものを守ることに躊躇いは無かった。だけど。

「…………っ」

 この結果だけが、どうしても、悔しくて。善人達が何一つ得をせず、邪悪な存在だけが得をしたこの結末が、言いようがないくらい、悔しくて。それが、つい、躊躇いとなって表れて。

 俺がそうしていると……唐突に、零音が声をあげた。

「ケイ」

「……っ」

 ふと前を見ると、式見が、台座の前まで移動していた。

 零音が、不機嫌そうに式見を静止する。

「今、オーブに触れようとしたよね? 私に黙って、そういうことして、いいと思っているのかな?」

「…………」

 式見は、悔しそうに唇を噛む。…………。……俺のせいだ。俺が、迷った素振りを見せたから、式見は……自分が……。
 零音が、本気で苛立たしげに告げる。

「ケイがそういうことしたら、私、本気で人類、滅ぼすよ?」

「っ」

 言われて……式見は、引き下がった。……そうだ。それでは、全く意味が無い。そうか……俺は、目の前のことばかりに意識がいっていたけど。本当に重要なのは、こんなことさえ簡単に出来てしまう力を持つ、この女……零音を、倒せる要素が現在は見つからない以上、何がなんでも不機嫌にさせないことなのかもしれない。だから式見は、素直に、彼女に従っているのだろう。

 零音は、ぼさぼさと髪を掻いたかと思うと、「ケイ」と彼の名を呼んだ。


「面倒だから、もう、空君を、刺して♪」


「な――」

「ケイ」

「っ」

 式見は、名前を呼ばれただけで、抵抗をやめる。そして……手に、ナイフを物質化した。

「おい……式見! まだ、俺は――」

 死ぬわけにはいかない。そう、言おうとしたその直後には――。

 式見のナイフは、俺の腹部に、抉りこんでいた。


「か……はっ」


 膝をつく。……腹に、式見のナイフがめり込んでいる。かろうじて急所は逸れている。しかし、もう、これじゃまともに動くことも――。

 …………。

 そういう、ことか。

「ケイ、うまいうまい~♪ 空君瀕死♪ 以心伝心だね~。これで空君、もう逃げられないし、ごちゃごちゃ言わず、オーブに触れるしかなくなったね♪」

「…………」

 式見は、何も、答えない。

 ……式見……。…………。……っ! 不意に、腹に刺さったナイフから、式見の意識が流れ込んでくる。

 ……………………。

 俺は、それを、受け取り。

「式見!」

 彼の意図を《全て》察して、声をあげるも、しかし、もう、遅かった。

 零音が式見に寄り添い……俺に、「ばいばい」と手を振る。


「あんまり長居してもケイが揺らいじゃうから、私達は、ここらで《この物語》から退場するね♪ 頑張れー、空君! ファイトー! 世界を救っちゃえ、主人公! きゃははっ!」

「ま……待てっ! 零音っ!」

 俺の、呼びかけも虚しく。

 零音と式見は、一瞬でその場から掻き消えるようにして、いなくなってしまった。……どうせ、まだ塔の近くで俺のことを……クライマックスを見ているのだろうが。この怪我じゃ……状態じゃ……とても追う事も出来ない。それどころか、この塔から出ることさえ、かなわない。

「ちくしょう……選択肢、根こそぎ奪ってきやがった……」

 これが、零音のやり方なんだろう。結局、最後はどう足掻いたってアイツの面白いようにしかならない。式見があれほど危険視していた理由が、よく分かった。

「…………」

 一人、残された、空間で。

「…………」

 俺は、ただただ、呆然と、禍々しいオーブを……《70億の死》を、見つめた。



【3】――初代――


「……っう!?」

 唐突に、意識が、覚醒する。

 ガバッとその場から起き上がり、周囲を見回すも、しかし、混乱は一向におさまらない。

「どうなって……やがる」

 見れば、そこは、死後の世界なんてものではなく、意識を失ったその場所……塔の、屋上だった。

「俺は……負けたはずじゃ……」

 そうだ。俺は、アイツに……弟に、銃で撃たれたはずだ。そもそも、俺の残り時間も、あの時点でわずかだった。そんな弱った体に、最後の一撃。どう考えても、俺が存続している理由が見当たらない。
 あの、青空の綺麗さも、鮮明に思い出せる。それは、死の間際の、世界のきらめきだと思っていた。

 しかし……。

「……なんだ……」

 ゆっくりと、空を見上げる。……相変わらず、空は、綺麗で。そして……心は、感じたことのないほどに、清々しかった。
 心持が変わった? 改心したから、景色が綺麗に見える? 冗談じゃない。俺は、そんな甘ったるい考え方を受け容れられるほど、単純に出来ちゃいない。

 でも、だとしたら……。

「?」

 そこで、違和感の正体に気付いた。

 腹の中から……妙な、温もりを感じる。これが、どうも、俺の気分を高揚させ、世界を綺麗に見せ、そして、未だに俺を存続させている源らしい。

「……なんだって――」

 と、そこまで呟いたところで。

 それの正体に……思い当たった。……間違いない。俺はあの時……腹を、撃たれた。そうだ。これは、撃たれた場所。思えば、痛みは感じなかった。それどころか、その瞬間は、どこを撃たれたのかさえ、分かっていなかった。

 それもそのはずだ。

 これは……。

「っ! あの馬鹿がっ!」


 優しい霊力の……癒しの力の、塊だ。


 あの野郎。

 あの野郎。

 自分も、ボロボロのくせして。


 ありったけの慈愛を弾丸に込めて、俺に、霊力を、分けやがった。


「なに……してんだよっ、ちくしょう!」

 床を一回殴りつけ、そして、その場に立ち上がる。感謝なんかより、腹立たしさがこみ上げてきていた。理由の全然分からない怒り。

 俺は、アイツが居るであろう中枢に向かう陣へと向かいながら、苛立ち紛れに呟く。


「くそっ、くそっ! 馬鹿にしやがって! なんだこれ! 弱っちい弟に情けをかけられて存続して、俺が喜ぶとでも思ってんのか、あのクソ偽善者野郎がっ! ふざけんなっ! くそ、あの野郎を構成する要素殆ど全部つぎ込んでやがるじゃねえかっ! おかげで、俺の命の期限まで有耶無耶だ! これじゃあ、世界を恨む理由の殆ど、消えちまうだろうがよ! 俺から存在意義まで奪う気かよ!
 なんなんだよ! なんなん……だよ! ちくしょう! 記憶まで流れ込んできやがる! なんだよ! くそっ! くそっ! 俺と同じかそれ以上に、辛かったんじゃねーかよ! なに、俺にばっかり同情してやがんだよ! お前に同情される謂れなんて、これっぽっちもねぇんだよ!
 ……知ってんだよ! 流れこんでくんなや、このクソ記憶が! ああ、最初から、んなことは知ってんだよ! 鞠亜も……藍璃も! 誰も、悪いヤツなんかいなかったんだって! ちょっと心が弱かっただけの、ただの被害者だって、俺だって、知ってんだよ! うるせぇな!
  くそっ! くそがっ! 腹立つ! なんだよっ! なんでこんなに――」


 涙が、止まらねぇんだよ。


「ちくしょうっ! ちくしょう! これじゃ、俺は……俺は、なんなんだよ!」

 転送陣に霊力を流し込む。中枢をイメージすると、そこに……アイツが倒れているのが、見えた。

 奇妙な台座の前で、ぐったりとしながらも、しかし、這って、何かをしようとしている。

「……これは……」

 そして俺は……あの野郎が、何をしようとしているのか、気付き。

 その瞬間。

 怒りも激情も憎悪も何もかも、すっ飛んだ。

 気付いた時には。

 野郎の前に、転送し。

 そして。

 オーブに触れる直前だったアイツの脇腹を、思いっきり蹴り払っていた。

「ぐっ!?」

 野郎は……空は、何が起こったのか分からないままゴロゴロと転がり、そして、俺を見つけて……ギラリと、睨みつけてきた。

「なにすんだっ、このクソ兄貴! お前、今どういう状況か分かって――」

「うっせぇんだよっ、愚弟がっ! てめぇこそ、勝手なことしやがって! ああ!?」

 弟の胸座を掴み、持ち上げる。空は……もう、抵抗する力も持たないようだった。

「放せよ! 俺は、やらなきゃいけないことがあんだよ!」

「うっせぇ! てめぇに出る幕なんざ、ハナからねぇんだよ!」

 俺はそう怒鳴ると、空を、転送陣の上に放り投げる。そして、強制的に、それを起動させる。

 空は、案の定、驚いた顔をしていた。

「な――。てめっ、こら、馬鹿兄貴! まだ人類滅ぼそうとか――」

 なおも怒鳴る弟に。

 この、ムカついてムカついて仕方ない、クソ弟に。

 俺は……。

 俺は、最後に。



 どうだとばかりに、ニカッと、笑って、やった。

 ここは、俺の勝ちだ。



「なあ、空。人類と弟救って死ぬとか……空っぽの悪霊にしては、上出来なラストだと思わねぇか?」




「な――」

 空は、驚愕に目を見開き、こちらに手を伸ばそうとするも、しかし、陣は既に転送を開始している。

「てめぇでやったことの責任くらい、てめぇでとらせろよ。クソッタレが」

「っ! に……にいさ――」

 何か言いかけたところで。空は、完全に、その場から消え去った。

 俺は弟の消えたその空間を、しばらく見つめ……そして、ふっと、笑う。

「なんだよこれ。これから、とんでもねぇ苦痛が始まるってのに、俺……」

 腹の中に感じる、弾丸の温もりを噛み締める。

 部屋の機能を作動させて、天井に青空を映す。……綺麗だ。やっぱり、綺麗だ。

 もう……思い残すことは、無い。上出来すぎる。

「痛ぇのは嫌いなんだよなぁ、実際」

 嘆息する。いやになる。こんな機能、なくしときゃよかった。

 だけど。



「空。……俺、今、残念ながら本気でハッピーだわ」



 笑顔で。


 オーブに、手をかざした。
[ 2013/02/07 16:33 ] オルゴ | TrackBack(0) | Comment(0)

オルタナティブゴースト~終章8~

【1】

 真っ暗闇の中。

 御倉了という人間について考える。

 残念ながら、俺の中にある彼の記憶、経験は、恐らくパーフェクトなものじゃない。ある程度、鞠亜や藍璃さんに補足され、自分でも勝手に空想で補って、作り出されたものだろう。

 それでも、彼の友人程度には、彼を正しく認識もしているはずだ。

 だから、それを信じて、彼を想う。

 そもそも彼は、性格に反して、体が弱かった。病気を抱えていて、割合、子供の頃から「死」を身近に感じていた……ように、思う。

 でも、あまりに最初から身近にあったせいだろうか。彼は、そのことについて然程悩んではいなかったどころか、それはそれとして、じゃあいつ死んでも悔いがないように生きようと、そう考えて生きている人間だった。

 前向きで、いいヤツだったんだと思う。自分のことを褒めているみたいで、若干気は引けるが、それでも、素直にそう思える。藍璃さんがあんなに愛しているのが、いい証拠だ。

 なのに、どうして。


 そいつから生まれたはずの俺や初代は、こんなに、歪んだのだろう。

 過酷な病気を、明るく受け容れて、前向きに生きた御倉了。

 そのはずだったのに。

 その割には、俺や初代の心は、ちょっとした過酷で、あっさり、折れた。

 個性が無いとか、作られた命だとか……そういう……今なら、瑣末と思える問題で。

 俺達は簡単に、自暴自棄になって。


 俺達と御倉了……何が、違ったんだろう。

 立ち直った俺と、最後まで打ちのめされていた初代。何が、違ったんだろう。


 仲間、とか。友人とか。絆とか。多分、結局はそういうことに収束されるのだろうけど。

 それだって……殆ど、運みたいなもんだ。俺や御倉了は、多分、運が良かった。いい人たちが、周囲にいてくれた。そういう環境に最初から身を置けるっていうのは、なんだかんだ言って、結局のところ、運だったんだと思う。世の中……やっぱり、どうしても、理不尽だから。


 ……駄目だ。


 初代の考え方を覆せる言葉が、俺の……神無空の中にも、御倉了の中にも、そして……式見蛍の中にも見つからない。

 俺や、御倉了、式見蛍は、仲間に恵まれていた。

 本当に……恵まれていた。恵まれ、すぎていた。俺たちには勿体無いぐらい、素敵なヤツらが、皆、傍にいて。だから俺達は、過酷に耐えたり、乗り越えたりしてこれて。

 だけど……そんなヤツらの、正義ぶった言葉が、どうして、初代の心に届くだろう。


 俺は弱い。式見蛍のように、力づくで、タナトスとかいうヤツの根性を叩きなおしたような、ああいうことは、出来そうに無い。

 それに、俺は……今はもう、とても、初代に拳を、武器を、向けられない。戦えない。あいつに対して……戦意が、湧かない。

 守らなきゃって、思う。世界を、大切な人を。だけど……俺の「大切な人」の中には……。


 もう、初代も、入ってしまった。


 ……闇が、深まる。

 確か……撃たれたんだっけな、俺。真っ暗だ。何も見えない。意識が、混濁する。

 空っぽ。空っぽの空。

 誇れる信念も、説得力ある言葉も、何も持たない。

 借り物の戦闘力も、初代には、及ばない。


 ……もう、俺の役目は、終わったのかもしれない。


 …………………………。

 …………………………。

《――……俺は、出来損ないの、代替物にさえなれない、欠陥品かよ……――》

 ?

 なんだ、この、記憶……。式見蛍のじゃない……。御倉了のでもない……。

 なんだ……これ

《――……「ねえ、リョウ君。私と一緒に、ちょっと遊ばない?」……――》

 零……音? なんだこれ……俺は、アイツにこんな誘いをされたことなんて、一度も……。

 ……!

 ……そうか。そういうことか。


 霞む意識の中、胸に、手を伸ばす。

 ……胸に、穴。

 銃弾を、まともに喰らった……穴。

 だけど。

 打ち抜かれたと思っていたけど。

 ある。

 銃弾が……《初代の放った銃弾》が、《空っぽの空の中》に、ある。

 …………。

 なら、まだ。

 寝るには、少し、早いかもしれない。



【2】――初代――

 ぴくりとも動かない二代目……考えようによっては俺の弟たる、今は神無空とか名乗っているニセモノを見下して、俺は、はぁはぁと息を切らせていた。

 疲れては、いない。確かに一瞬押されてはいたが……しかし、強い相手ではなかった。残念なことに、どうしようもなく、このニセモノは……弱かった。弱くて、弱くて、憐れなほどに、弱くて。

 息を切らせるような要因は、殆どないはずだ。

 なのに。

「はぁ……はぁ……」

 俺は、心臓なんて無いはずの胸を押さえて、その場に立ち尽くしていた。

 頬を、何か、液体が伝っている。それが涙だと分かるまで、数秒かかった。

「くそっ……なんだよ……ちくしょう」

 言いようの無い虚無感に襲われる。

 色んな……鞠亜やら、俺の知っているヤツ、知らないヤツ、色んなヤツになった、神無空。

 そいつの胸を撃ちぬいた瞬間……なぜだか俺は、「世界を滅ぼす」っていうのは、こういうことかと、感じた。笑顔を見せたヤツ、優しいヤツ、元気なヤツ、勇猛なヤツ。色んなヤツを……一まとめに、消し去った。

 ……沢山の悪霊を狩ってきた。

 存在していて、意味のないヤツらなら、沢山……沢山、狩ってきた。

 こいつだって……目の前で倒れているこの、いちいち癪に障るニセモノだって、その一人だったハズだ。

 なのに。

 なんで。

「くそ……くそっ! いてぇ……!」

 こんなに、胸が痛い。

 良心? ハッ、反吐が出る。そんなものは、余裕があるヤツだけが持っていていいものだ。他人に情なんて抱けるほど、俺は、余裕なんか無い。

 誰かを気づかえるような状況じゃ、ない。なんせ、もう死にかけだ。ちょっと前だったら、おちゃらけて、悪ぶって、悪役やサイコ気取りも出来た。だけど……そんなことさえ、今はもう、出来ない。それほどに、もう、余裕なんか無い。消滅を前にして、俺は、もう、俺でしかいられない。

 剥き身の俺。名前の無い、俺。御倉了のなりそこない。そんな俺に……敵を殺して傷む良心など、あるはずがない。

 なのに。

「なんだよ……ちくしょう!」

 動けない。

 藍璃のところに行って、式見蛍を殺して、そして、塔の本当の機能を起動させ、世界の滅亡を見て、満足して、消える。

 それが、俺にとっての、ベストエンド。

 ああ、ハッピーなんかじゃあないわな。それぐらい、俺にだって理解出来る。そういう感性までは、歪んでいない。歪んでいないからこそ……俺は、皆を、道連れにしたいんだ。狂ってないからこそ、こんなに苦しいからこそ、俺は、世界を、滅ぼしたいんだ。のうのうと生きているヤツらに、一緒に絶望を味わってほしいんだ。

 なにがいけない。

 力ある者が、願いを叶えるために力を振るって、何がいけない。

「くそ……早くしねえと……!」

 俺の体は、もう、長く持たない。こんな……ニセモノと一緒に倒れるのなんて、まっぴらごめん――




「よお。随分焦ってんじゃねーか、俺」




「!?」

 唐突な声に、ハッと視線を上げる。今まで、ニセモノが……神無空が倒れていたはずの場所。

 そこに。

 今は。


 俺が、立っていた。


 血のように紅い真紅のレザージャケットとレザーパンツ。手に持った、俺の、二丁剣銃。そして、自分でも嫌いな……歪んだ、微笑。

 鏡写しのように、そこには、俺が――

「……ハッ。なんの小細工だよ……ニセモノッ!」

 俺は、すぐに状況を察し、目の前の存在に対して、銃を構える。……胸糞悪ぃ。
 《俺》は……神無空は、ケラケラと、俺みたいに笑った、

「流石にすぐ気付いたな、俺。そうだ。俺は、神無空だ」

「悪趣味なモノマネ、ここに極まれりだな、てめぇ」

 ザッと相手を観察する。……よく見れば、その自信満々な立ち居振る舞いとは相反して、霊気は弱々しかった。……死にかけだ。もう、立っているだけで、精一杯のハズだ。
 しかし、それでもニセモノは、俺に笑いかける。

「確かに俺は神無空ではあるが……同時に、やはり、お前でもあるよ、オリジナル」

「なに言ってんだ、てめぇ」

「俺は、お前の放った銃弾に込められた霊気……飾らない、お前の本心そのものの顕現だからな」

「っ! なにが……本心だ。くだらねぇ。さっさと死――」


「演じるのもいい加減にしようや、《俺》」


「っぅ!」

 ぶるぶると、腕が震える。……なんだよ、おい。なに動揺してんだよ、俺。
 撃て! あのヤロウを、黙らせてやる!

「人類滅ぼすのがベストエンドだぁ? 嘘つけ。お前、そんなこと全然思ってねーだろ、本当は」

「黙れ! 俺の本心だって言うなら、俺の邪魔をするなぁああ!」

「なに言ってんだ。本心だから、邪魔してやってんだろうが、この『空っぽ野郎』」

「!? な、なに言ってんだ、てめぇ……。空っぽなのは、お前の方だろうが……」

 なんだ。足が、がくがくと震えている。

 照準が、きちんと、つけられない。

 引鉄を引く指に、力が、入らない。


 目の前に居る《俺》は……ニィッと、我ながら邪悪に、俺に微笑みかける。



「本当は空っぽのクセに。空っぽで、空っぽで、空っぽで、空っぽすぎて。そもそも、願いなんて、ありゃしねークセに」


「黙れぇええええええええええええええええええ!」

 無理矢理引鉄を引く!

 しかし、銃弾は空の髪を数本散らしただけだった。……照準が、定まらないどころじゃない。

 違う。

 照準を、定めて、ない。俺の手が、こいつを、全然殺そうとしていない!


「消えるのが辛い? 代替だったのが辛い? 復讐したい? 人類がうざい? 嘘つけ。そういうのは全部、《零音にそう言われたから、そう思い込んだだけ》だろう?」


「黙……れ!」

 銃口が、下がっていく。

「俺は。お前は。結局、何も望んでねーよ。御倉了の代替だって分かって、自暴自棄になって、とりあえず神無鞠亜の元から去って。でも、そんな激情なんて、数時間もすれば、冷める。憎しみなんて、とうに、消えている」

「だま……れ、よ」

 言うな。それ以上、言うな。

「神無空は、結局その後、藍璃や鞠亜と和解して、自分を手に入れた。目標を手に入れた。……で、俺。お前。お前はその場面で、何に出会った?」

「……………………」

 悪霊だ。俺を襲ってきやがった。俺を、取り込もうとした、悪霊。低俗な……本当に低俗な、悪霊。

 だから、俺は……。

「戦った。腹いせでさえねぇ。ただ、生きるためだけに、相手を狩った。ただそれだけだ。そう、ただそれだけ。……それだけしか、お前には、なくなったんだよ、その時からな」

「やめ……ろ」



「ぐれてさえいねぇ。拗ねてさえいねぇ。何もないお前は、結局、悪霊を狩ることだけに無心になった。そして、後付で、『俺は全てに絶望して、こうなってしまったんだ』と、結論付けた」

「違う! 俺は、俺の意志で――」



「意志? ハッ、意志なんてご大層なもん、まだてめぇにゃねえよ、《悪霊》」


「!」

 ぐらりと、体が揺れる。あく……りょう? 御倉了でもない、ニセモノでもない、初代でもない。

 ただの……あく……りょう。

 本能だけで、人を襲う。

 あの、低俗な。

 なんの悩みも、心も、ありはしない。

 悪霊。

「ああ……あああああ……あああああああああ!」

 がしゃんと、銃を、落とす。

 嘘だ。

 違う。

 違う。

 違う!

 俺は、俺は、世の中が許せないんだ!

 鞠亜が許せないんだ!

 藍璃が許せないんだ!

 理不尽なこの体が、消えるこの体が、許せないんだ!

 だから、人類を滅ぼして、そして、一緒に消える!

 それが、俺の、最後の望み――



「本当は、ただ幸せになりたかっただけだろうが、俺!」



「っ――」

 なんだ、これ。

 なんで……涙が、止まらない。


「破壊が望み? そんなの、『一週回ったヤツ』の考え方だ。世の中の様々なことを知って、その上で、結論を出したヤツが掲げる思想だ。……でも、俺は。お前は、違う。まだ、何も、知りはしない。世の中が、腐っているのかどうかさえ、知りはしねーだろうが」

「……理不尽だろうが……世の中、こんなに……理不尽、だろうが」

「そうか? 少なくとも、俺に……お前に、幸福になるために道がなかったとは思えねーな。あの時、すぐに神無鞠亜の元に戻っていたら? その怒りを、ちゃんと藍璃相手にぶつけられていたら? 悪霊狩るなんて阿呆な逃避行動に走らず、誰かに歩み寄ることを選択していたら? お前は、今みたいになっちゃいねーよ」

「…………」


「全部、てめぇの責任だ」


「違う……。……でも……結局、俺はこうなって……。だから……世界に、復讐を……」

「それで? お前、それで、満足かよ? ハッピーじゃなくてベスト? ハッ、みみっちいこと言ってんじゃねーよ。ハッピーになりたくないヤツが、いるわけねーだろ。ごまかすんじゃねえ。そんなこと言うってことは、てめーにとっての『ハッピー』は、別にありますって、言ってるようなもんじゃねぇか」

「…………」

 俺は……本当は何が、したかった?

 …………。

 目の前の、ムカツク……本当にムカツク、ニセモノ野郎を見つめる。

 いつ見ても、腹の底から、ムカムカしてくるヤロウだ。

 ホント……。

 ……ああ、そうか。

 そうか。

 俺は……御倉了に……。

 そして。


 神無空に、成りたかったのか。


「終わりにしようや、俺」

 目の前の《俺》が……いや、神無空が……俺に、剣銃を、つきつける。俺はそれを、もう、かわす気も無い。分かっていた。本心だなんだと言っていたが……今のこいつは、もう、殆ど、神無空だった。本心の俺は、あんなに綺麗じゃない。もっともっと汚れている。俺の説得なんか、しようとさえしないだろう。……全部、どうでもいいんだから。本質が、悪霊、なんだから。
 でも、相手がなんであろうが、もう、関係ない。……関係、無い。

 ぐにゃぐにゃと、俺のニセモノの体が変質し、神無空に戻っていく。かろうじて剣銃だけは顕現させているようだが……どうやらこのニセモノも、もう、限界らしい。

 剣銃以外、完全に元に戻った神無空は……ふらふらしながら……青褪めた顔をしながら……。


 しかし、満面の笑みを、俺に向けた。



「へへっ、俺の勝ちだな、《兄貴》」

「うるせーよ……《弟》」


 俺達は、歪に、笑い合い。


 そして。


《ドン!》


 空の剣銃から放たれた弾丸が、俺を撃ち抜くと同時に。

 空自身も、ふらりと、その場に、倒れこんでいった。


 …………。


 意識が消える間際に仰ぎ見た青空は、ムカツクほどに、綺麗だった。
[ 2013/02/05 16:40 ] オルゴ | TrackBack(0) | Comment(0)

オルタナティブゴースト~終章7~

【1】

 《私》は自分の体の状態を確認する。

 神無空とは違い、すべすべの手。小さな足。そして小ぶりに膨らんだ胸。
 物質化能力で「鏡」を作り出し、顔を確認。……そこにはよく見知った顔……神無鞠亜の顔があった。

「マリア……だと?」

 目の前では初代が驚愕に目を見開いて私を見ている。
 私は一度深呼吸をした。……大丈夫。《馴染んで》いる。


 今、私(俺)は――


 神無空であると同時に、神無鞠亜だ。


 体は完全に神無鞠亜のそれ。物質化能力で、完全再現されている。

 そして、心は……。

 私は、初代に……リョウに、ニコリと笑いかける。

「感動の再会に、声も出ないかしら」

「…………。悪趣味だな、ニセモノ」

 彼は呆れたように息を吐いた。

「そんなモノマネを持ち出して……お前はどこまで《個性》が希薄なんだ」

「モノマネ? まあ、そうね。でも……私のモノマネは一流よ。なんせ、空っぽなのだから」

「馬鹿馬鹿しい」

「まだ自分の立場が分かってないようね、リョウ」

「なに?」

 彼の舐めきった態度に……私は、自分の《能力》を見せ付けた。




 式見蛍の《物質化スキル》と、私の《霊科学知識》を掛け合わせる。



「《代替の個性》」



 右手に物質化能力、意志、霊力を集中させる。そして、《神無鞠亜の精神》を再現。


「――《霊的磁力》発生装置――」


「な――」

 瞬間、右手の先に出来上がる無骨で歪な機械。それは……正に、《鞠亜のセンス》。鞠亜のセンスと物質化能力が合わさった、作成物。
 リョウが混乱を来す中、私はそのマシーンを起動させる。

「スイッチ、オン」

 くすりと笑い、赤いボタンを押下。瞬間――

「!?」


 リョウの手から、剣銃が離れた。
 

 彼の手から離れた二丁の剣銃は超高速でマシーンの正面、ゴミ箱のフタのような《入り口》に吸い込まれていく。

「なん、だと?」

 リョウが呆然とする中、私は更に緑のボタンを押下する。

「霊力解体、吸収」

 途端、発光するマシーン。直後には、私の体の霊力がいくらか回復した。……あの武器を構成していた霊力分だけ。
 唖然とするリョウに対し、私は口の端を釣り上げて笑う。

「何を驚いているの? 私の得意技じゃない。《発明》は」

「まさか……バカな。これでは、まるで本物のマリアじゃないか」

「だから言ったでしょう。私(俺)のモノマネは、一流だって」

「っ!」

 ことここに至って、ようやくリョウの顔に緊張感が走る。どうやら事態を正確に把握したらしい。彼は剣銃を作成し直すと、私に向かって構え直した。私はもう一度マシーンを起動させようと――

《ズンッ!》

 したが、次の瞬間にはマシーンは彼の銃弾によって破壊されてしまっていた。

「あらあら。人の傑作をなんだと……」

「黙れ。お前は……危険だ。殺す」

 目が変わっていた。その瞳には先ほどまでの余裕がまるでない。
 私は一つ息を吐くと……ぽつりと、呟いた。

「どうやら、私の番は終わったみたいね」

「なに?」

「……《交替》」

 刹那。

 再び発光。次の瞬間には――


「久々に全力で戦えそうだな。この機会――存分に楽しませて貰おう」


「…………」

 敵認識。初代リョウ。現在は、私を見て唖然としている。……どうやら、この「メイド服」が意外だったらしい。確かに戦闘の場には相応しくない容姿だ。しかし、仕方あるまい。それが、《神無空の中のリエラ》なのだから。

 初代リョウはしかしすぐに判断を下した。私に向かって問答無用で発砲してくる。

 私はその軌道をジッと見定め――そして、空のように大きくかわすことなく、数歩素早く小刻みにステップを繰り返すことで、全弾を難なくかわしきった。
 初代リョウが舌打ちをする。

「……おいおい。モノマネってレベルかよ……完全に別人の動きじゃねえか……」

「その認識は誤っているな初代リョウ。私はあくまで神無空だ。空っぽの空という器に、彼が観察し続けてきた《リエラという個性》をインストールした躯体に過ぎない」

「空っぽ……か。おい、ニセモノ。個性だなんだと騒いでいたクセに、随分と姑息な能力じゃねえか」

「その通りだ。しかし、何も間違ってなどいない。人は人のマネをして学ぶ。私は姉さまに近付こうと努力し続けて、私になった。神無空は何も持たざる赤子だ。そして、自分にはまだ個性が無いことを正確に認識し、プライドを捨て他者の力を借りることを選択した。それだけのこと」

「……いちいち……いちいち癇に障るんだよ、ニセモノ!」

 初代リョウが今までよりも更に速度を速めた連射で攻め立ててくる。しかし私は、それを完全に見極め、最小限の動きでかわしつづけた。こんなものに身体能力は関係ない。戦場で培われた経験則。敵の思考、殺気、視線、空気の流れ。そういったものを感じ取れる鋭敏な感覚。それさえあれば、力など微塵も要らない。

「ち――ならばっ!」

 銃弾が当たらないことを悟った初代リョウが、片方の剣銃で連射を続けてこちらの行動を制限しつつ、もう片方の剣銃をブレードとして構え、私に突っ込んでくる。

「このタイミングならばかわしようがねぇだろ!」

「――ふむ」

 残念だが。


 バトンタッチだ。

「《交替》」

「っ!」

 縮む体。先ほどまで首のあった場所を、ブレードが思いっきり空振りする。

 そして。

「おほほほほほほほほほ! ワタクシ、幽子様にそんな攻撃が効くとでも思って――」

「…………」

 無言でワタクシに第二撃を繰り出してくる愚民。ワタクシは慌てて叫びました!

「出番少なすぎですわっ! けど……《交替》!」

 直後、彼の攻撃をかわしつつ、《私》は《緑色の札》を掲げる!


「《吸》!」


「ぐ――!?」

 初代リョウの体からキラキラとした光の粒子が、札に向かって吸い込まれていく。状況を理解するよりも先に、彼はその場から飛びのいて大きく距離をあけ、効果範囲を離れた。

 私は淡々と呟く。

「やはり、急ごしらえの札ではあまり効果ありませんでしたか……。まあ、マテリアルゴースト相手に霊力を直接吸引することが出来ただけ、よしとしましょう」

「貴様、一体……」

 彼にとっては正体不明の相手らしい。私は、挨拶のためぺこりと一礼する。

「申し遅れました。私、神無深螺と申します。主に悪霊討伐を生業としておりますが、他にも最近では色々と雑務もこなしております。以後、お見知りおきを」

「クソッ、俺の知らない二代目の知人か……」

「いえ。私は主に《式見蛍の記憶》から構成されています」

「なに?」

「私……いえ、神無空は決戦前に式見蛍に抱きついて、彼の記憶を分けて貰いました。結果、個性の無いこの体の中には、彼本人のデータベースの他に、一時的にではありますが、式見蛍のメモリーも保存されています。私は、その中の一人ということですね」

「……ハハッ。ここまで来ると、その《空っぽ》も一つの個性だな……おい」

 初代リョウは嘲るように笑う。
 私はどうも《ここからの展開に適した人格》ではないようなので、戦略的に先を考え、ここで降板させてもらうことにします。

「《交替》」

「……てめぇが誰になろうと……殺すだけだっ!」

 交替と同時に、初代が再度剣銃を構えて飛び掛ってくる。どうやら、近接戦闘で決めようという腹らしい。

 《オレ》は交替と同時に、両拳に鋼鉄のナックルを顕現させ、二本のブレードによる連撃を完全にいなした。

「ちぃっ――一体今度は何者だ!」

「ひゅぅっ! いいねぇこの能力、体! 無力じゃない……オレも戦えるってのは素晴らしいなっ!」

「……無視かよ」

「ん? あ、わりぃわりぃ。オレは星川陽慈。蛍の……式見蛍の友人だ」

「最早なんでもありだな、神無空」

「誰にでもなれるってのは、過言じゃないってこった。こいつにゃあ、無限の可能性がある。……いや、本当は誰にだって、あるんだけどな」

「また随分と恥ずかしいセリフを堂々と言う男だな」

「うるせぇ! とにかく……友達の友達が困ってんだ! ハリキッて参戦させてもらうぜっ!」

「っ」

 言うと同時にオレは地面を思いっきり蹴り、初代に近付く。彼はどうやらオレが近接スタイルだと悟ったらしく、上空に飛び距離をとりながら銃を乱射してきた。
 しかし――

「しゃらくせぇっ!」

 オレはその銃弾を、かわしもせず、全て両の拳で弾く!

「おいおい、デタラメすぎるだろう!」

「だぁあああああああああああっ!」

 自身も跳躍して初代の懐に飛び込む。そして、銃としてのスタイルから剣としての使用目的に変更しようとするその一瞬の隙をついて、思いっきり腹に一撃入れた。

「が――」

「まだまだっ!」

 畳み掛けるように顔と脇腹に数発叩き込む。そして最後に両手を組んで思いっきり、初代の背中に振り下ろす。

「――――」

 彼は声をあげる暇もなく、塔の屋上へと激しく叩きつけられた。
 しかし、ここで攻撃の手を緩めはしない!
 オレは自身も落下しながら、叫ぶ!


「《交替》ぃ!」


 うめく初代さんのすぐそばに着地する。動きの鈍い彼の傍にタタタッと駆け寄り、そして、その右肩に手を置く。

「?」

「《封》!」

 ビリビリっと、自身の手から電流のようなものが流れる感覚。直後、初代さんは「がぁっ!」と雄たけびのようなものを上げ、私を振り払った。

「きゃっ」

 弱々しく悲鳴をあげながら、尻餅をついてしまう。……うぅ、やっぱりこういう運動は苦手だ。
 よろよろと立ち上がった初代さんが私をギロリと睨み付けていた。……怖い。

「で、貴様は……なんだ。俺の肩になにをした」

 ダラリと右肩をぶら下げながら、私をにらみ付ける彼。
 私は慌てて立ち上がりつつ、こほんと咳払いをし、人差し指をぴんと立てた。

「今のはですね。極めて初歩的な霊体弱体化の技です。マテリアルゴーストに応用を利かせるのは大変でしたが、蛍に物質化能力が発現した時からずっと一緒にいる私ですから、努力の結果、こういう応用技も可能となったわけでして。詳しい原理を説明すると――」

「うるさい。……どうやら、右肩の動きを封じられたようだな。再生さえ効かないとは……」

 忌々しそうに私を……神無鈴音を睨みつける初代さん。
 う。こ、これはどうやら、私の出る幕じゃなさそう……かも。
 こういう圧倒的な威圧感に抵抗できるのは……。

「こ、《交替》!」

「…………」


「くくく。遂に私に出番が来たな。この時をどれほど待ったか! 真儀瑠紗鳥、いざ、主役の時!」


「…………でい」

 バキュン。

 撃たれた。自慢の長い髪が、ハラリと宙に舞う。
 ……………………。
 実はすっごくびびったけど、とりあえず、不敵な態度は崩さない!

「ふん、甘いな、初代リョウ! 私ほどに成れば、そんなもの、簡単に見切れるのだ!」

「いや、今のはわざと外したんだが――」

「それさえも我が策の結果!」

「……なんか妙な抵抗はあるんだが、そろそろ仕掛けていいか?」

 チャキッと二丁剣銃を構える初代。……やばい。まだ交替したくない。

「まあ待て、青年よ」

「お前、それほど年上じゃないだろう」

「よく考えてみろ青年。無益な戦いになんの意味がある。人の幸せは、こんなところにはないぞ」

「なんかよく分からんが、面倒臭いな、お前」

「見ろ、この綺麗な空を! こんな日は絶好の帰宅日和だ! さあ、帰ろう! 戦いなどやめて、我が家へ!」

「俺、住所不定だが。今はこの塔が家みたいなもんだが」

「…………。……いや、違うな。お前は、本当はそんな風に思ってない。自分の家は……帰るべきところは他にあると、どこかで信じているだろう」

 私はスッと目を細める。彼は、明らかに狼狽していた。

「っ! なにを根拠に……そんな……」

「私は帰宅部部長だ。帰る場所のあるなしぐらい……目を見れば分かる。お前は、どこかに帰りたいと思っている。……神無鞠亜の家か? それとも――」

「黙れっ!」

 瞬間、彼は私の眉間に向かって容赦なく発砲してきた。

 しかし――

 私はそれを、素手であっさりと受け止める。

「な――」

「ふ……分かった分かった。そろそろ私は退散しよう。《交替》だ」

 私は最後まで余裕を見せつけたまま、次の人格へとシフトする。……内心めっちゃ焦ってたことは、表面上は隠しておくことにした。み、眉間に撃ってくるって予想、当たっていて良かった……。この体の運動神経がすこぶる良くて、助かった……。ふぅ。

 《交替》する。

「……ふぅ」

「? もう、モノマネは終わりか?」

 一端、《俺》に戻る。……本当なら、メモリーの中の《ユウ》になるハズだったんだが……式見蛍の意識みたいなものが、それを邪魔した。「代替と言えど、彼女はもう休ませてやってくれ」らしい。……どうやら、この人物は彼にとっては少々特別らしい。
 俺は一つ息をついて、初代に向き直る。《代替の個性》で大分体力を削られたらしい。その瞳に余裕は一切なかった。

「なあ……初代。真儀瑠紗鳥も言っていたが、もう、やめにしないか?」

「…………」

「人類を滅ぼしたいって気持ちは、分からないじゃない。でも……それを為したところで、絶対、虚しいだけだぞ? そんなもの、お前にとってのハッピーエンドじゃ、絶対無い」

「…………だろうな」

 意外なことに、彼はそれを認めた。
 初代はしかし……どこか悲しげな瞳で俺を見つめると、キッパリと言い放った。

「しかし、俺は最後までこの目的を貫く。俺にはもう……それしか、ないからな」

「おい、いい加減に――」




「もう時間が無いんだ。俺はあと……数時間で、消える」




「…………は?」

 頭が、真っ白になった。なにも言葉を返せなかった。
 初代は、虚しさしか伝わってこない空笑いをする。

「俺は欠陥品だからな。最初から……命の……いや、存在の期限は、決まっていた。マリアは知らんだろうがな。些細な綻びだ。霊力の構成が狂う。ガンのようなもんだ。おっと心配すんな、二代目。てめぇの体はよく出来てるよ」

 自嘲気味に笑う初代。俺はなんと言っていいのか分からなかった。

「で、二代目。こんな俺にとっての《ハッピーエンド》って、なんだよ」

「それ……は……」

 何もいえなかった。

 俺には……無限の未来がある。なんにでも、なれる。そういう、希望がある。それだけを拠り所として、前向きに生きることを決めた。

 だけどこいつには……それさえ、無かったのだ。そんな、誰もが持っていい権利さえ……なかった。

 生まれは御倉了の代替で。その役割さえまともに果たせなくて。悪霊として世間から疎まれ。果ては、命の期限まであって。

 ……そんなヤツに、俺が……常に優しい仲間に支えられて生きてきた俺が、何を言えるのか。

「人類を滅ぼす。普通に考えれば馬鹿げた思想だろうが……でも、俺にはもう、これしか見つからないよ。ハッピーエンドなんて無理だ。だったら……最後ぐらい、スカッとして死にたい。自分を不幸にした世界に、一発仕返しをして死ぬ。それが……俺にとっての、ハッピーじゃなくても、ベストなエンドだ。満足出来る死だ」

「…………」

「だから二代目」

 彼が、俺に向かって剣銃を構える。


 かわさなければ。《交替》しなければ。戦わなければ。


 しかし……俺は、動けなかった。なにをしていいのか、分からなかった。

 ただただ呆然とする俺に向かって――

 初代は……一筋の涙を流す。


「そろそろ、倒れてくれ。……頼むからさ」




「――――」



 彼の涙に、全く動けないまま。




 気付いた時には、胸を銃弾が貫いていた。
[ 2013/01/30 16:28 ] オルゴ | TrackBack(0) | Comment(0)
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プロフィール
ども。マッドドッグです。ガルルゥ!

マッドドッグ

Author:マッドドッグ
プロフ画像はすずにゃん作。

オレとは画力が違い過ぎるぜ・・・w

【自己紹介的な何か】

名前:マッドドッグらしい。
職業:今年は中3だぜフッフー(黙

・・・これ以外が思いつかないらしい。
あ、あと、よく泣くらしい。

すかいぷっぷっぷー(ぇ
アーンドついった。

ID:maddodoggu
HN:マッドドッグ

基本は木曜の夜9時からと、土曜の夜8時からはいます。
そのほかはたぶんいない。

今年は受験という名の人生最初の試練だな…

最近は短編小説をちょくちょくあげてます。

感想とかほしいです。

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基本、フレンドリーですから。

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